真紀さん奥にて6666番げっとのリクエストは「燔火」の続き。これで、このシリーズ、最後ですよ〜(涙)
燠火
夜の深さをこんなにも感じたことはなかった。
闇がいかに危険な熱をはらむのかを、焼け付いた頭のどこかで思い知る。
一度、触れてしまえば歯止めなどきかなかった。
ただ、睦言を繰り返しながら、強張る身体に想いを与え続ける。
声を伴わぬ悲鳴が、何度もあがる。
押しとどめようとした指先が、宙で固く握りしめられる。
静まることを知らない炎が、愛しい身体を焙り続ける。
行き着くところがどこなのかも分からない。
だから、暁光が紗幕を染めたときに、安堵した。
溺れ続けた狂気が、朝の清冽な光に溶かされるだろうことを期待して。
「朝だ」
ようやく解放した身体を、沈む敷布の内に眺めながら。
身内には、くすぶり続ける火種がいつ炎を吹き返してもおかしくはなかった。
「私は・・行かなくてはならない」
もう一度、二人の過去を取り戻すために。
兵を率いての出立までにさほど時間はない。
うつぶせたままの背が、乱れた呼吸で波打つ。
言葉は、ない。
「ユーリ?」
わき上がる嫌悪に顔を背けながらも受け入れ続けたことが、精一杯の答えであるとは知っているのに。
それ以上を望むのは。
「ユーリ、私はおまえに何がしてやれる?」
あの男をこの世から消し去ること。あの男が与えた記憶を消し去ること。
痛々しい背中に触れる。
びくりと恐怖し、強いてそれを押し殺す。その、反応が切ない。
問うのは、己の心の邪さに対して。
あの男にも、そうやって拒んだのか?術がないため、受け入れながら。
焦燥が執拗に身体を探り続ける。
生きていてさえいてくれればいいと、思ったのに。
「ユーリ、お願いだ」
縋りたいのは、ただ一つの言葉だ。
「おまえの、心がききたい」
奪う者と奪われる者の関係ではなく、甘やかな時を重ねるための行為だと信じるために。
「おまえが言葉をくれるなら、あの男と刺し違えてもいい」
白いままの首筋に唇を押し当てる。薄い皮膚の下に、頑なな拒絶がある。
懇願が、苦く漏れる。
ほかには、なにも望みはしないはずなのに。
「・・・愛していると言ってくれ」
終
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