きくえさんの奥での7000番げっとのリクエストは「秋」ネタ。やっぱり・・食欲の秋、かなあ・・。


ふわふわ



「秋と言えば」
 あたしが言うと、カイルは真剣な顔で剥いていた栗を、あたしの口に押し込んだ。
「実りの秋、だろ?」
 むむ、ちょっと違う。口をもぐもぐさせながら、あたしは首を振る。
 では、とカイルは粘土板をひきよせる。
「読書の秋か?」
 ヒッタイトの歴史は面白いけれど、今はそんな気分じゃない。
「違うよ」
 まだ湯気を立てている栗を手に取る。固くて剥きにくい。
「スポーツの秋か?」
 カイルの手が栗を取り上げ、器用にむき始める。またしても、あたしの口に押し込む。
「・・なんで、あたしにばっかり食べさせるの?」
 今度こそ、カイルの口に入れようと思っていたのに。
「かわいいから」
 こういうセリフを平然と言う男には気をつけろって、お姉ちゃんが言ってたよね。
 気をつけろったって、今さらどうすればいいんだろう?
 だって、その・・もう手は出されちゃったし。
 あたしは、またしても栗を取り上げる。絶対、初志貫徹する。次こそはカイルに。
 さくっと音がして、顔をあげるとカイルが梨を囓っていた。
「ああ〜〜〜っ」
「なんだ?」
 声を上げたあたしに、カイルはびっくりする。
 だって、梨だよ?栗は・・もう食べないの?
「食べたかったのか?」
 ほら、と囓りかけの梨を差し出す。あたしは、首をぶんぶん振る。
 あ、めまいがする・・。
「仕方ないな」
 カイルは梨を囓るとあたしを抱き寄せる。
 やっぱりね。
 口移しで甘酸っぱい果肉を与えられながら、そうじゃないという意思表示に、カイルの腕を押し返す。
「甘いだろう?」
 甘いけど・・。
 あたしは、頭を振るとふたたびカイルの腕の中で真剣に栗に取り組む。
「ユーリ」
 もう、邪魔しないでよ。
「こら、ユーリ」
 耳にカイルの息がかかる。おまけに、うなじに指が走り始める。
「・・カイル、あたしは栗を剥きたいの」
 ふーん、とカイルは言う。そして、ぱちんと殻を割る。
 あ、カイルが自分で剥いた栗を自分で食べた。
「だめぇ〜〜〜っ!!」
 叫ぶと同時に、カイルの首に腕を回し唇に唇をぶつける。大胆に舌でこじ開けて・・。
 ・・・奪還成功!!
 攻撃は最大の防御なり。ちょっと違うか。
「ユーリ、なんのつもりだ?」
「カイルは、待ってて!!」
 指先に力を入れると、殻がぱちんとはじけた。よし、多少いびつだけれど栗が剥けた。
「はい、あ〜ん」
 差し出したあたしの指を、胡散臭そうに見ていたカイルは、それでも口を開いた。
 その口の中に、実を落としこむ。
「・・おいしい?」
「・・・ああ」
 もぐもぐしながらカイルはうなずく。
 なんだか、気分がいいなあ。
「秋と言えばね」 
 次の栗に取りかかりながら、あたしは言う。
「ピクニックだよ、一緒に行こうよ」
「馬に乗ってか?」
 ふたつめの栗のために口を開けながら。
「そうよ、ね、出かけよう?」
「だめだな」
 カイルは首を振る。
「今は放牧のシーズンだし・・それに、分かるな?」
 分かってるけど、冬になる前に走りたかったのに。
 しょんぼりとしたあたしに、カイルが今度はザクロを差し出した。
「ほらユーリ、あ〜ん」
 なんか、食べてばっかりいない?さっきから・・
「今年は豊作だ・・・豊穣祭は盛り上がるだろうな」
 ああ、大きなイベントがあったんだ。
 新年祭と並ぶ大きな行事。
 ハディが大騒ぎして衣装を用意していたっけ。
「う〜ん、やっぱり出なければダメ?」
「辛いのなら無理に出なくてもいいが・・出てくれれば皆が喜ぶ」
 言うとカイルは、もう一度口を開いた。
 栗の実を入れたあたしの指をそっと掴む。
「秋はやっぱり、実りの秋だ」
「・・・収穫までには、まだ遠いよ?」
 カイルがあたしの腰に腕を回し、そっと腹部に口づける。
「新年祭には、な」
 あたしはカイルの髪を撫でながら、空に目を移す。
 青い空がどこまでも広がって、糸みたいな雲が流れていた。
 子供の頃は、この空を見上げるたびに切なくなった。
「秋って、どうして寂しいんだろう?」
 カイルがブドウを取り上げる。
「お腹が空くからだろう?」
 違うって!
 憤慨するあたしの頬に口づけながら、カイルはささやく。
「私がいるのに・・寂しいのか?」
「・・・寂しくないけど」
 やっぱり、お腹が空いているのかな・・。
 あたしは、お腹のあたりに手を当てる。
「食いしん坊だね・・どっちに似たのかな?」

 秋だからな。
 カイルが笑った。

                  おわり   

      

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