yukiさん、奥にて7777番のキリ番げっとのリクエストは「カイルの皇子時代のユーリとのらぶらぶ」・・意外にこの二人、一緒にいないんですよね・・。


未来


「どうかな、子供の方は」
 満面の笑顔で兄が言ったため、むせてしまう。
「あ、兄上・・いえ陛下」
 カップを小卓の上に戻しながら、せき込む。かたわらのユーリを見れば、話が見えていないのか、きょとんとしている。
「そのようなことは、まだ・・・」
「どうしてだ、私には子供がない。皇太子のおまえに一日も早く跡継ぎをと、皆が望んでいるのだぞ」
 兄・・現皇帝アルヌワンダ二世はそう言うと、ずいと上体をユーリに近づけた。
「どうだユーリ、身体に・・なにか変わったところはないか?」
 とたんに赤面するユーリをかばって、私は言う。
「陛下、これはまだ子供なんです。まだ、そこまでは」
「確かにイシュタルさまは幼くお見えになるけれど、殿下のご寵愛はなにより深いのですもの」
 言ったのは、兄のそばに控えていた皇妃だ。
 大人しく控えめな皇妃は、穏やかな笑みを浮かべる。
「一日もはやく、御子をなして私たちに抱かせてくださいね」
 この先も、我が子を腕にすることは出来ないだろう皇妃は、ユーリに懇願するように言った。
「・・・はい・・」
 消え入りそうな声で、ユーリがうなずく。
 皇妃が、皇弟の側室に親しく声をかけることなど破格の扱いだ。
 兄はユーリを気に入っている。皇帝側室の侍らない内々の酒宴にもユーリの同伴を許してくれた。
 それが、このような展開になるとは。
「こればかりは、思い通りにはまいりませんから」
 苦い思いを噛みしめて言うと、私以上にその辛さを知る皇帝夫妻は話題を切り上げた。



「だめだよ、カイル皇子・・」
 ユーリがぽつりと言う。
「こんなことじゃ・・」
「ん?」
 寝台にはいる前に、抱き寄せようとしていた私の腕が止まる。
 宴の後、皇太子の宮に戻ってからも、ユーリは黙りがちだった。
「なにが、だめなんだ?」
 向かい合えば、うつむいたうなじが目に入る。薄闇の中、細い首筋が幼く映る。
 私は、髪にそっと指を忍ばせる。
「だって、皇子は子供を作らないと」
 思い詰めたような瞳が、間近で見上げる。
 黒曜石の色がわずかに潤む。
 本心で言っているのだろうか。
「誰と?」
 ささやくように。
「・・・皇子のお妃になる人とだよ」
 どうして、そんなに切なそうに私を見るのだ?
「・・・今は、それどころではない」
 私はユーリの身体に腕をまわす。細い身体を両の手の中に納める。
「おまえをもとの世界に帰すまでは、おまえを守らなくてはならない・・・だから、そんな余裕はない」
 これは、嘘だ。
 誰を騙すための嘘なのだろう。
「あたしが帰れば・・お妃をもらうんだね?」
「ああ」
 水の季節がやって来れば、ユーリは帰って行く。
 私は、この国のために責任を果たし、妃を迎え皇統を残そう。
 生涯たった一人を愛し抜くと決めた正妃を迎えて。
「それまでは、一緒にいよう」
 それからは・・どうするのだろう。
 たった一人に、出会えるのだろうか?
「もう、遅い。はやく休もう」
 いつもと同じに抱き上げる。紗幕をかき上げ、寝台に下ろす。
「疲れただろう、おやすみ」
 まぶたを唇で閉じる。頬に、額に口づける。
「・・・おやすみなさい、皇子」
 つぶやきが吐息に変わる。
 柔らかな黒髪を撫でつけながら、白い寝顔を凝視する。
 幼い表情は、両親の庇護を必要としている。だから、奪うことはできないのだ。
 ユーリが去った後、私はどうするのだろう。
 目を閉じても焼き付くこの面影を求めて、偽りの愛を妻に捧げるのだろうか、生涯ずっと。

 ユーリの胸が規則正しく上下する。
 私は息を詰めてそれを見つめる。


 二人でいる未来を思い描くことは、罪なのだろうか。


                おわり

      

      

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送