水上の音楽
                              By yukiさん


 寝付かれなくて中庭に出ようと扉を開けるとリュートの音色が聞こえてきた。
 この音色、この調べ、弾いているのはきっとあの方。
 胸を高鳴らせその姿を探すとあの方と、その隣寄り添う小柄な影。
 私が後宮に召されたは陛下に望まれてではないことなどすぐにわかった。
 後宮に集められた姫君達を見てもまるで関心が無いかのように出て行ってしまわれた。
 それでもと思い改めて挨拶に伺えば、傍らには見慣れない小柄な影。
 噂には聞いていた。

「キレイだね。カイルのリュートあたし好きだな」
「おまえが望むのなら毎日でも弾いてやるさ」

 二人の会話が聞こえてくる。私には見ることができなかった穏やかな表情。
 あの娘は毎日朝が来るまで後宮に戻らない。
 誰にも寝顔を見せることなど無かったあの方が隣で眠ることを許している。
 かなわないことなど分かっている。あの娘はこれまでのどの姫君達とも違うのだ!
 そんなこと陛下のお姿を毎日追っていればすぐに分かる。
 それでも納得なんてしたくなかった。
 あの方が特別な存在を見つけてしまったなんて。

「皇帝とそのたった一人の側室が王宮で人目を気にするなんてのもヘンな話だな。
もっともあまりにおおっぴらじゃ、おまえが苦労することになるし…」
「そんなの気にしてないよ。身分のないあたしが後宮にいるなんてほんとはありえないことなんだから」
「何言ってるんだ。おまえは私のイシュタルだ。天が私に遣わしたというのに身分などどうでもいいことだよ」

 陛下は何も仰らないけれど分かってみえるのだ。
 後宮でご自分の寵姫がどのようなめにあっているのか。
 それでも諌められないのは何か理由があってのこと。
 私にはその理由は分からないけれど、きっとあの娘のために抑えてみえるのだろう。

「夜明けまでまだ間があるな。
おいで、部屋に戻ろう」
「今からまたじゃあ1日もたないよ。ちゃんと休まないと」
「分かってるよ、無茶はしないさ」

 陛下はさも愛しそうに寵姫を抱き上げる。
 一瞬、陛下の視線がこちらを流れた。
 視線がぶつかる。
 その一瞬さっきまでの無防備とさえ言える表情が消えた。
 私に一瞬見せたのは私の知っているあの表情。
 あの娘が憎かった。陛下の特別な存在になってしまったあの娘が。


                            END

      

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