帰還
信じられないような知らせがハットウサのカイルの元に届けられた。砂漠で死んだはずのザナンザ・ハットウシリ皇子によく似た人物を見かけたというのだ。
さっそく、カイルは調査の兵を国中に派遣した。
そして・・・
「本当に・・ザナンザなのか?」
我が眼を疑いながら、カイルはその人物を見た。
そこにいるのは、どう見ても別れた頃と同じザナンザだった。
「・・・皇子・・生きてたんだね」
皇妃の玉座から、ユーリも涙声で言った。
ザナンザそっくりの人物は、首を振った。
「いいえ、陛下。私はザナンザ・ハットウシリ皇子ではありません」
その声もザナンザにそっくりだった。
「うそよ・・その声を間違うはずはないわ!!」
たまらずユーリが駆け寄る。
「ね、皇子なんでしょ?」
カイルも玉座から立ち上がった。
「・・・おまえは確かに私の弟だ・・なぜ否定する?」
ザナンザそっくりの人物は苦しそうな表情を浮かべた。
「・・・確かに、私はザナンザ皇子にそっくりです。でも、私は皇子ではないのです。それは・・」
語り始めた彼の言葉は、カイルにもユーリにも衝撃を与えた。
「ザナンザ皇子は、砂漠で無くなりました。・・・しかし、偶然皇子の遺骸を通りかかった人物が見つけたのです。その人物の名は・・死神博士。博士は男前の皇子を気に入って、皇子そっくりのサイボーグを作ったのです。それが・・私です」
そう言うと、サイボーグ・ザナンザは、腕を差し出した。
「触ってみて下さい。人間そっくりな手触りでしょう?私の頭の中にはザナンザ皇子の記憶もそっくり移植されています。けれど、私は作り物なのです」
おそるおそる腕に触れながら、カイルとユーリは顔を見合わせた。
「ザナンザ皇子・・そっくりのサイボーグさん・・あなたもしかして、奥歯でかちっと加速装置のスイッチが入るの?」
サイボーグ・ザナンザは静かに頭を振った。
「いえ・・それは、予算の都合で付かなかったんですよ」
「ザナンザの記憶がそっくりあるのなら、おまえはザナンザだ!!」
カイルは言うと、サイボーグ・ザナンザの腕を引き寄せた。
「私たちの所に帰ってきて欲しい」
カイルの目には涙が光っていた。サイボーグ・ザナンザは静かに上着を脱ぎ始めた。
「皇子・・のそっくりさん!?」
驚く皆の前で、上体を露わにしたサイボーグ・ザナンザは、胸の真ん中にあるボタンを示した。
「見て下さい、このボタンを・・・・これを押すと私は」
「変身するのか!?」
「ミサイルが出るの!?」
「違います」
サイボーグ・ザナンザは、ボタンを押した。
広間の中の人々は息を飲んだ。
「・・・押すと・・光るんです」
発光クラゲのように淡く光るサイボーグ・ザナンザは、苦悩に満ちた声で、告げた。
その後、光るザナンザがヒッタイト王宮の夜の宴会で重宝されたことは言うまでもない。
めでたしめでたし。
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