ナッキー☆ワンダーランド
王宮から、馬車の中に身を潜めたナキアは、アイギル議長の屋敷へと忍び込んだ。
なにしろ、これからはたった一人で運命(?)に立ち向かうことになるのだ。
頼りになるウルヒも、ちょっとくらいは頼りにしてやってもいい侍女もいなかった。
とりあえずは腹ごしらえをしよう。
台所からかっぱらってきたパンにかじりながら、耳を澄ませる。
なにか、屋敷の中が騒がしい。
「キルラ、キルラはいるか?」
アイギル議長の声がする
キルラというのはアイギル議長の息子で、今はかわいい顔をしているがそう経たないうちに○○るだろう。
遺伝とはそういうものだ。
「キルラ、そろそろ始めるぞ、結婚式まで間がないのだ」
普段、温厚なアイギルはなぜかいらいらしていた。
不思議に思ったナキアが、そっと隠れていた物置の戸の透き間からのぞくと、番傘を持ったアイギルが見えた。
「いいか、タイミングが肝心だ」
「はい、父上」
アイギルが、ぱっと傘を開き柄を持ってくるくる回し始める。
「お〜め〜で〜と〜う〜ございまあ〜す」
アイギルが言うと同時に、キルラが急須を投げた。
ふわりと傘の上に着地したそれは、やがてくるくると回り始める。
「父上、やりましたね!」
「だめだ、キルラ!!まだ気を抜いてはいかん!!」
アイギルはほほえみつつ厳しい声で言った。
「では、父上、次はマスです!!」
キルラも表情を引き締めると、真剣にマスを投げ上げた。
「ああっ!?」
しかし、マスは急須にぶつかり、ふたつが転げ落ちる。
ち〜ん
急須が割れたらしい。
「ああっ、申し訳ありません、父上!!」
「気を抜いたな、キルラ!!しかも、なんだその顔は。芸人はいついかなる時も笑顔を忘れてはいかん!!」
「す、すみません」
ナキアは、ようやく理解した。
彼らは、練習しているのだ。きたる結婚式に備えて。
ヒッタイトでは、古来、皇族の結婚式の後の宴で余興として「隠し芸大会」が行われている。
主だった重臣や、その子弟が芸を披露するのだった。
華やかな場で注目を浴びる機会でもあり、皆はそれぞれに芸を競った。
ことに皇帝の結婚ともなれば、見事な芸を披露した者にお目がかかりその後の出世にも影響する。
だから、貴族達は真剣に練習するのだ。
『アイギルのやつ、たしか私の宴でも傘回しをしていたな・・つまらない芸だった』
しかし、伝統芸能とやらで年寄り受けはたいへん良く、「隠し芸大賞」を授与されていた。
年寄り皇帝のせいで、元老院議長にまで出世したアイギルは、今度は息子を助手にして皇帝に取り入ろうという算段なのか。
『しかし、アイギルその芸は、つまらぬわ!!』
ナキアは心の中で吐き捨てた。
『こやつは石頭じゃ。真のエンターテイメントを理解してはいない!!』
かって、後宮で『クラッシュ・ナッキー』の異名をとり、余興の女王の名を欲しいままにしていたナキアの血が騒いだ。
『こやつらに、芸とはなにか教えなくてはいけない!!』
ぎりぎりと、拳を握りしめたとき。
「父上・・」
おずおずとキルラが切り出した。
「じつは・・私も出し物を考えているのです」
「なに、おまえがか?」
キルラは恥じらいながら従者に合図する。
数人の従者が、大きな箱を運び込んだ。
「じつは、デ○ィット・カッパー○ィールドを参考にしたんです」
言うと、まあまあスタイルの良い娘が入ってくる。
「これからこの娘を消してご覧に入れます」
「おお、そんな大技ができるのか?」
驚くアイギルの前で、キルラは娘を箱に入れた。
「いいですか、さん、にー、のっ!!」
ぱっ、と箱に布をかけ、すばやく取り去る。
「消えました!!」
箱の扉を開くと・・・
アイギルはため息をついた。
「いかんな」
箱の奥は鏡で仕切られていて、娘が挟まってもがいていた。
明らかに失敗だった。
「この・・娘がいかん。もう少し・・身のこなしの素早い娘なら・・・」
もう、黙ってはいられなかった。
ナキアは服を脱ぎ捨てた。
下から、黒地にスパンコールをちりばめたレオタードがあらわれる。
ポケットから出した目元を覆うマスクを身につける。
「しかし、父上・・いまさらそんな娘など」
「お待ちっ!!」
物置の扉を蹴りあける。
「おおおっ!?」
アイギルもキルラも、ついでに娘も驚愕した。
「その芸、私が成功させてやろうではないか!!」
「あ、あなたはいったい・・?」
マスクで顔を隠しているため、ナキアだとは、ばれていないようだった。
「・・・その衣装、その化粧!!さては、あなたは引○天巧か!?」
するどい誰何の声に、ナキアはにやりと笑った。
「違う、だが、そのような者だ」
つかつかと箱に歩み寄る。呆然としたままの娘を引き出す。
代わりにナキアが箱に入った。
「キルラとやら、箱を閉めるがよい!!」
「は、ははあ〜っ!!」
慌てながらもキルラは扉を閉めた。
息をとめる。次の瞬間、箱を開け放つ。
「おお!!」
そこには・・・誰もいなかった。
「キ・キルラ、素晴らしいぞ!!」
アイギルはぼたぼた涙をこぼした。
「父上、まだです!!」
キルラは再び扉を閉めた。
「はあっ!!」
かけ声をかける。
扉からナキア(仮面付き)が飛び出すと、Y字ポーズをとった。
「どうじゃ、これがエンターテイメントだ!!」
室内にいた者たちは一斉に拍手を始めた。
アイギル議長バンザイ、と従者達は叫んだ。
アイギルは泣きながらナキアの手を握る。
「ありがとうございます、あなたがいれば今回の『隠し芸大賞』も、当家のもの。多少化粧は濃いが、あなたこそは神が使わしてくれた天使です」
「ありがとう、天使さま」
キルラも手を重ねた。
ナキアはにやりと笑った。
「喜ぶのはまだ早いぞ、アイギル。敵はてごわい。しかし私がついている限り『隠し芸大賞』は、だれにも渡さぬ!!」
どよめきがあがる。
ナキアは、遠く王宮の方を仰ぎ見た。
『待っておれ、カイル。私こそが真の宴会女王だ!!』
それでいいのか、ナッキー?
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