これは、トーイさんのHPにUPされていたどんどんさんの『もしもハディが間に合わなかったら?』という作品を読んで、空白だった(・・・)だった部分を想定して書かれた作品です。(どんどんさんには了承済みです)

 ユーリが、カイルと心のつながりを取り戻すまで・・・


 それからの夜〜9.5章

                                 byみるさん




日が暮れる頃、私はユーリの部屋を訪れた。このような時間にやって来たのはあの日以来だ。
ユーリは昼間の遠乗りのときの姿とはうってかわって、透けるような夜着を身にまとっていた。

目の前には幾皿もの料理が並んでいたようだったが、それは意識にとめられることもなく、
ただワインだけが咽喉を滑り落ちていった。
静かに時間が流れる中、私の目はユーリだけを求め、その姿を見つめているだけで心に何かが満ちて
くるようだった。

ユーリは落ち着かな気に夜着の裾をいじるばかりで、やはり料理に手を伸ばそうとはしない。
食事をするなどもう無理だな・・・ワインを置いた次の瞬間、私は温かい身体を腕の中に収めていた。
「・・・食事は後でいい、な?」

急に抱き寄せられたからか、一瞬ユーリは驚いた顔をして私を見たが、その顔はみるみる赤く染まり、
それを隠すように胸に顔を埋めてきた。



・・・しかし、私はしばらく動くことができなかった。
いぶかしく思ったのだろう、腕の中のユーリがそっと私の顔を仰ぎ見る様子が、目を閉じていてもわかった。

「私はお前を失わずにすんだのだな・・・」

思わず出た言葉に答えるように、ユーリは腕の中から伸び上がり、ほっそりとした腕を
首にまわしてきた。

「あたしここにいるよ。陛下のそばにずっといる」

耳のすぐ横で囁かれた心地よい声。温かい息をともなったそれは、身体の隅々まで行き渡っていった。
その言葉をどんなに待ったか、お前にはわからないだろう。
「日本になど還るな」と咽喉まで出かかった言葉を幾度こらえたか。抱きたい気持ちを抑えられなく
なりそうで、早く寝てしまってくれと願った夜が幾度あったか。
そうして守ってきたのに、最後に力づくでお前を奪った・・・。

そんな私をユーリは許すと言う。全てを捨てて、私の気持ちに応えたい、と。
私の気持ち・・・まだあどけないお前にどうやってこの心を伝えよう。

「ユーリ」
「なに?」
「今夜から私のことは『カイル』と。私を名前で呼ぶ者は生涯お前ひとりだ」
「陛下・・・。あ・・・えっと・・・カイル・・・?」

嬉しそうに、はにかんで私の名前を呼ぶユーリ・・・・・・愛しくて目が眩む。
軽い身体をすいと抱き上げると、夜着の裾がなよやかに舞った。

「私のすべてをお前に」



ユーリはどこもかしこもなめらかだ。すんなりとしたそれは、唇以外はまだ青い実のままで、
これを自分は無理やり押し開いたのか・・・。ユーリがその時のことを思い出して怯えないよう、
私は祈るようにくちづけを繰り返した。黒い髪のひと筋ひと筋から・・・。


唇がすべてを覆い尽くした頃、私の下でユーリは最初の色づきの時を迎えていた。
香油は胸元にしか塗られていないはずだが、上気した体全体から甘い香りが匂いたつ。

しかし、さらに膝に手をかけた時、突然ユーリの肢体はこわばり瞳はきつく閉じられた。
拒絶の言葉は懸命に飲み込んでいるが、抑えられない震えが伝わってくる。
やはり・・・。私は膝から手をはずし、ユーリの顔を両手で包んだ。

「ユーリ」
「・・・・・・」
「ユーリ。・・・さあ、こちらを見て」
目は開けたものの、視線をはずしたまま涙を滲ませている。

「無理することはないのだよ」
「ご、ごめ・・・な・・・・さ・い」
「お前が謝ることはない。この責めは私が負うべきものだから」

ユーリが私を見た。滲んだ涙は雫となって今にもこぼれ落ちそうだ。
「ユーリ、ユーリ、お前を泣かせるようなことはもうしたくない」
こぼれる前にすくいとろうと唇をよせたが、拾われなかったもう片方の雫が私の手を伝った。

「お前の心が解けるのを、私はいつまでも待っているから。だから安心して今夜はおやすみ。
 ・・・抱きしめられるのも怖いか?」
「ううん、そんなことない」
「では、前のようにお前を抱いて眠ろう」

ユーリはじっと私を見つめている。
乱れた髪を丁寧に梳いてやりながら、私はユーリの横へと身をずらそうとした。

その時、ユーリの手が腕にかかった。

「待って。あたしカイルのこと好きなの。すごく好きなの。だから・・・だから・・・抱いて欲しいの!」
「しかし・・・無理は・・・」
「無理なんかしてない! 本当だよ」
「・・・・・・」
「お願い・・・」

ユーリの目に迷いはなかった。
腕にかかる小さな手。私を引きとめようとするその力はわずかなものだったが、はずことはできなかった。
心は決まった。

「お前が望むならば」



いつしか月の光が部屋に差し込んでいた。
体にいくつもの灯をともし、お前は繰り返し私の名を呼ぶ。
愛撫に耐えかねて身を反らせば、白い咽喉元があらわになり、私はまた誘われるようにそこにくちづけた。


そして再び。
「ユーリ、私を見ろ」
黒い瞳に自分の姿が映った。ユーリ、お前に私は見えているか? 私の声は届いているか?
「愛している・・・・・・愛している・・・愛しているよ」
「カイ・・ル・・・」

私はゆっくりと細い腰をひきよせた。



お前に名前を呼ばせる・・・それは証。
お前の口から出れば、名前すら愛の言葉。私はそれだけで十分だ。

                        終わり

    

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