異国の女神

                                     by yukiさん

 兄上が妃を迎えられた。
 これまでどれほどの浮名を流そうと宮に誰も受け入れることの無かった兄上が。
 兄上が見初められたのだ、どれほどの姫だろうと任地のカネシュからハットゥサの兄上の宮へ急いだ。

 驚いた。
 これまでの兄上の恋人たちとはあまりにも違ったので。
 それ以上に兄上の態度がこれまでのどの姫に対するものよりも優しさにあふれていたから。
 いつのころからか、いずれ帝位に就くとものと胸に留めてそれに相応しいようにと振舞われた。
 どれ程の浮名を流していようと、その心には正妃となるに相応しい姫を思い描いてのことだった。


 『私は私の正妃となる者に厳しい要求をするだろう。
  人の上に立つ器量、自戒心、自制心。そのほかにも多くのものを。
  そのかわり、生涯正妃ひとりを愛しぬこう』


 そう言っていた兄上が側室を迎えたれた。
 聞けば、ユーリはナキア皇妃に我々を呪い殺すための生贄として狙われ、次の暁の明星が昇る頃には
自分の国に還るという。

 いずれいなくなる異国の娘。

 だから妃にしたのかもしれない。
 だが、それにしては兄上の瞳はこれまでに見たことが無いほど生き生きとしている。

 ユーリがいるから。

 ユーリは私たちが知っているどの娘とも違った。
 感情を表に出し、くるくると快活で少しもじっとしていない。
 大人しく控えめな貴族の姫君たちとはあまりにも違う。
 それでいて平民の娘たちとは違い私たちを見つめる瞳には強い光が宿っている。

「兄上、本当に還してしまうのですか?」
 何ともいえない寂しげな表情を浮かべる。
「ザナンザ、私はあれと約束したのだ。必ず国に還してやると。
 それに、この帝国にいてはユーリは私たちの争いに巻き込んでしまう。
 あまりにも酷な話だ」

 初めて手放したくないと思った娘を手放すと言う。

 心赴くままに振舞うには私たちには枷が大き過ぎた。
 皇家の皇子という身分は絶大な権力と共に大きな足枷となる。

 だからユーリに惹かれるのかもしれない。

 ユーリは身分を持たない。
 そもそも身分など無い国から来たと言う。だから、兄上にも私にも臆することなくひとりの人間として接する。
 生まれた時から身分により区別されてきた帝国の人間ではできないことだ。
 身分ある者は権力にすがり、身分ない者は権力の前に諦める。
 ユーリは身分の上下にこだわることはなく、自分に与えられた権力にも気づかない。
 兄上の妃として皇族の権力を認められているというのに気づきもしない。

 彼女は自由だ。

 強い光をその黒曜石の瞳に宿し、強靭な翼でどこまでも飛んでいくだろう。
 願わくば、兄上の治世に光を宿すものでいて欲しかった。 



おわり

    

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