チアフル・クッキング

                             by マリリンさん


「ねえ、カイル見て見て。キノコいっぱいとって来ちゃった。」
 「また、抜け出したのか。お前は」と言おうとして振り向いた私は凍り付いた。
「ユ、ユーリ、それは!。」
「うふふ、豊作よ。今日はキノコ料理作るからみんなで食べてねえ。」
「だめだ!だめだ!」
 我を忘れて私は叫んだ。
 ユーリの瞳にあっと言う間に涙が盛り上がる。
「ひどい、カイル。わたしの料理食べたくないのね。」
 ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「ああ、そうだよ。お前の料理は食べたくないんだ。」
 そう言えたらどんなにいいか。お前が料理を作ると言うたびに思っているさ。
 お前を泣かしたくないから言えないけれど。
 だけど、今度のだけはお前がどれほど泣いてもダメだ。

「ユーリ、それは毒キノコだ。食べたらとんでもないことになるぞ。」
 感情を押し殺しながら、低い声で告げる。
「毒キノコ?キノコって全部食べられるんじゃないの?」
 きょとんとしているユーリ。
 ああ、お前にキノコについての知識があるとは思っていないけれど。
「いや、毒のあるキノコもあるんだ。食べれば死んでしまうような猛毒を持つものも。だが、これは・・・」
 私の言葉を聞くやいなや、ユーリはキノコのかごを放り投げ、
「デイル、ピア」
と叫びながら扉に向かった。
 まさか、デイルとピアがこのキノコを口にしているのか?
「ユーリ、待て!。デイルとピアはどこにいるんだ?。」
 私の問いかけにも答えずユーリは走り出た。
 私が廊下へ出たときユーリの姿はすでに消えていた。しかし、走っていった方向はすぐにわかった。
 衛兵全員がユーリの走り去った方向を見ていたから。
 皇妃が王宮内を全力疾走していけば誰でも、そうなるだろう。

 やっと追いついたユーリは、後宮中庭の池のそばに立ちすくんでいた。
 目の前にはデイルとピアの座り込んだ姿があった。
 ユーリは声をかけることもできないようだ。
「ま、まさか。」
 心臓が凍り付きそうな恐怖に耐えながら、私は二人の息子の名を呼んだ。
「デイル、 ピア」
 ゆっくりと振り向いた二人の息子は、私の顔を見つめながら、ゆっくりと池の方を指さした。
 その瞳は、信じられないものをみた驚きに満ちていた。
「・・・・・・なんだ?」
 視線を息子たちから、池へ移す。

 そこには、ピチピチと水面から何度も飛び上がり、身をくねらすとと丸&とと姫の姿が見えた。
 デイルとピアが与えたキノコを食べたらしい。
 そう言えば、これは笑茸だった。魚がこんなにも興奮しているのを私は初めて見た。

 あのあと、とと丸たちはぐったりとして池の中を漂っていた。
 ユーリはキノコをすべて捨てた。二度とキノコをとってくることはないだろう。
 息子たちが、キノコを口にしていなくてほんとうに良かった。
 とと丸たちは気の毒だったが。

 ユーリは狂ったように息子たちの手を洗い続けている。
 ここには”セッケン”とかいうものがないとか”ショウドク”とやらができないとかつぶやきながら・・・・

 とと丸たちの様子を見るために池のそばへ寄る。とと丸が力無く泳ぎ寄ってきた。
 あんたも大変だな。と同情するようなまなざしをくれたのは気のせいだろうか。

                                 おわり

     

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