『木陰にて・・・』

                      byひねもすさん

 私はいつものように長く続く宮廷の廊下を歩いていた。
 書記長たる私は、いつもは部下の書記官をつれて歩いているが、珍しく今日は一人で歩いていた。
 そんなとき、後からパタパタと自分に駆け寄る足音が聞こえてきた。
 ふわりと風が動き、私の鼻孔をくすぐる。
 この香りは・・・・

「イル・バーニさま。お待ちください。」
 私を呼び止める慣れ親しんだ声。
 顔がゆるむのを必死で堪え、いつもの無表情を無理矢理作り応えた。
「ああ、ハディか。何のようだ?」
「あ、あの・・・。お話したことがあるのですが、少々お時間をいただけますか。」
 俯きがちに、顔を赤らめながら訊ねるハディ。かわいい。
「かまわないが、何かな」
 私は冷静を装うのに必死だった。
「あ、あの、ここではなく、ちょっとあちらへ」

 ハディの目線は廊下からはずれた中庭の方を指していた。
 人の目に触れない中庭の木陰を・・・・・。

 はやる心を抑えつつ、私は言った。
「ここでは、言いにくいことなのか?」
「え、あ、は、はい。申し訳ありません。お忙しいのに。」
 この瞳の輝き!ユーリ様が陛下をご覧になる時と同じ瞳。恋する女の瞳だ。
「いいや。行こう。」
 行くとも、ハディ!
 私は足がもつれ声が上ずるのを、なんとかごまかしつつ木陰へ向かった。

 中庭の木陰で、私たちは向かい合い佇んだ。
 だが、ハディは、なかなか話そうとはしない。
 これは・・・、この言いにくそうな態度は・・・(どきどき)。
 わざわざ、人気のない所へ誘導した理由・・・(ばくばく)。
 告白だ・・・。
 愛の告白だ!
 ああ、ハディ。やっと告白してくれるのか。
 私から告白してもよかったが、貴族の私が言えば無理強いするような気がしてな。
 それに、やっぱり告白されたかったし。

「あの・・。イル・バーニさま。お伝えしたいことがあるんです。それとお願いを・・・」
 頬を赤くして、小さな声で言うハディ。
 かわいいぞ!!
 思えば私たちも長い付き合いだな。
 ユーリ様がヒッタイトに来られて、まもなくおまえや双子達が女官になったんだ。
 初めて会った時、美人だと思った。
 しっかり者で家計簿つけるのが上手そうだった。
 自分の意見もしっかり言えて、武芸にも秀でてるから戦場でも大活躍だったな。
 だが、それでいて涙もろい・・・・かわいいな〜(でれ)。
 うん。うん。
 こんな、理想的な女が同じ職場に来たときは、ユーリ様の存在に心から感謝したもんだ。

 あれから何年たったのだろう。
 一人結婚し、二人結婚し・・・・・・。
 周りは次々と結婚し、とうとう妹にまで先を越されたなんて陰口叩かれていたおまえが可哀想だった。
 いつも、心の中で「私がいるぞ。ハディ、おまえは未来の元老員議長夫人だ!」と叫んでいたんだぞ。「陰口叩いた同期の女官なんて、見返してやれ!」と言いたかったが・・・・。

 一生に一度でいいから、告白されてみたかったんだ!!

 ハディ、勇気を出せ!
 私の返事は、決まっている。
「好きです・・・」そう言われたら、「知っていたよ」。
 そう優しく微笑みながらおまえの気持ちに応えるんだ!
「イル・バーニさま。私・・・」
 いよいよだ。
 出会って〇年。生まれてきて〇〇年。女性から告白される!
 いよいよだ!!!!!

「私、ルサファと結婚するんです。」
「知っていたよ」

「え?」
「え?」

「まあ!イル・バーニさまは、ご存知でしたの?」
「あえあ、あええあ、あうわあわ」
「さすがですわ。そうなんです。私、ルサファと結婚するんです。きゃっ!」
 茫然とする私を気にもせず、ハディは恥ずかしさが抜けたらしく、矢継ぎ早に話し始めた。
「アリンナでウルヒの目を打ち抜いたあたりから、ちょっといいな・・って思っていたんです。確かに、ユーリ様を好きだって知った時には、ちょっとショックでした。
でも!私もユーリ様命だからピッタリだと思って。」

 ハディは私が聞いてもないことをどんどん話し続けている・・。
 聞きたくない・・・。
 でも、何も言えない・・・茫然自失とはこのことか・・・。
 こんな時にも四文字熟語がでてくる文系な自分が嫌になった。

「炎夏の秤の後、手当てしたりとか積極的にアピールしたんです。
その後、船が難破したとき助けてくれて・・・。後で双子から聞いて知ったんですけど。
もう、嬉しくって!
でも・・・・私が恥かしくてなかなか告白できないでいたら、あの恥らいを知らないネフェルトが!(まったく、ストレートのいい男は鉄より貴重だってのに。エジプトから出張ってくるんじゃないわよ!)」

 ハ、ハディ・・・・顔が怖いぞ。

「もう、ネフェルトがルサファを好きだって聞いて、すぐ告白して・・つき合い始めたんです。」

 嘘だろう・・・・。
 そんな素振り、なかったじゃないか・・・?。

「私たちのこと、三隊長には、ルサファから言ってもらったんです。
双子とキックリには、私から。
あ、ユーリ様には、私が。陛下には、ルサファがご報告したんですよ。
でも、皆知ってたんです。もう、恥かしくって・・・・。
イル・バーニさまもご存知だったなんて・・・。
なんか、こういうことって結構ばれちゃうんですね・・やだわ(/////)」

 やだわ・・・といいながら嬉しそうだな、ハディ。
 私は、全然知らなかったぞ・・・。
 皆知ってたのか?
 知らぬは亭主ばかりなりとは、このことか・・・。
 いいや、私は亭主じゃなかった。この諺は不適切。

「で、イル・バーニさまには、お願いしたいことがあって・・・。
お忙しいからダメだってルサファは言うんですよ!イル・バーニさまのお返事も聞かずに、ひどいと思いませんか?」

 ぷ〜とふくれっ面をするハディ・・・。
 おい、私に痴話喧嘩の内容を聞かせる気か。
 それに何で、こんな人気のない木陰を選んで話すんだ?
 別に廊下で話してもいいだろう?
 期待・・・・するじゃないか!!!
 もう、心はぼろぼろだ。
 よろけそうになる私に、ハディは言った。

「あ、すみません。よけいなこと言っちゃって。(//////)
え〜と。イル・バーニさまに披露宴で恋歌を歌って頂きたいんです。
ユーリ様は踊ってくださるんですよ。
双子とキックリは、手品。
ミッタンナムワは、へそ踊りだそうですわ。ちょっとやめてほしいけど、好意でやってくれることなんで言えなくって。
カッシュとシュバスは、漫才。カッシュが突っ込みで、シュバスがボケだそうです。
陛下とラムセスは、ユニット組まれるそうです。そのためにわざわざ来るラムセスも暇人ですよね。まあ、お祝いしてくれるんだか、いいんですけど。
ああ、楽しみ。イル・バーニさま、よろしいでしょうか?」

 恋歌を歌えだと!(涙)
 残酷な女だ!!(涙 涙)
 ハディ!!! (涙 涙 涙)
 私は、言葉にならない叫びを挙げた。

「あう、うう、ううう」
「まあ、よろしいんですね。うれしい。じゃあ、お願いします!」

 よくない・・・。
 よくない・・・。
 頭の中をぐるぐると四文字熟語と諺が駆け巡るが適当なのが浮かばない。
 そんな私を置いて、嬉々としたハディはそそくさと去っていった。


〜結婚披露宴当日〜

 イル・バーニの悲しい恋歌が響いた。


                   (終わり)

     

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