琥珀の時間

                        by yukiさん

「ユーリ、あなたにぴったりの耳飾りがあるんだ。
 耳をかしてごらん」
「え?ホント?
 ありがとザナンザ皇子」
 ユーリが顔を寄せる。
 兄上がこちらを見ているのを分かっていてマントを軽く上げユーリの姿がよく見えないようにして体を寄せる。
「もう少し上を向いてくれるかな?」
「こう?」
 兄上からはどのように見えているだろう。もっともそれも計算に入れて耳に手をかける。
「ザナンザ!」
 やっぱり我慢できなかったと見える。明らかに不機嫌な顔をして足早に近づいてきた。
「ユーリ!」
「?
 どうかした?」
 私を引き離すようにしてユーリをマントの中に抱き込み、ようやく落ち着き耳飾りに気付く。
「これは?」
「ザナンザ皇子がくれたんだよ。
 どう?似合うかな?」
「よく似合ってるよ。
 兄上の瞳と同じ色の石で作った耳飾りだ。
 どうです?よく似合っていますよね、兄上?」
「…。ああ、よく似合っているよ。
 ありがとうザナンザ」
 なにやら微妙な顔で礼を言われてもね…。
「あたし3姉妹に見せてくるね!」
 ユーリはわたし達を残して言ってしまった。
「兄上もユーリのこととなると形無しですね」
「しかたないだろう、ここまで溺れた娘は初めてなのだから」
 拗ねたようなセリフだが、兄上の表情は自慢気でもある。
 
 辺りが琥珀色に包まれる頃、王宮への伺候から戻ると兄上たちは池のほとりで寄り添っていた。
 ユーリを膝の上に抱いて腰に手をまわし、空いた手で黒髪を愛しそうに梳いている。
 兄上の胸に軽く体を預け見上げるその表情はなんとも幸せそうでそれ以上近づけなくなる。
 あどけない少女のようでありながらふと垣間見せるその顔に目を離せなくなる。
「覗き見とは、あまり趣味がよろしいとは言えませんな」
「イル・バーニ…」
 覗き見か。向こうは気付いていないのだから確かに覗き見だな。
「兄上が女性とご一緒の時にあのような顔をされるのは初めてだから珍しくてね」
「全く困ったものです。殿下には早くご正妃相応しい方を見つけていたかなくてはならないというのに」
 正妃に相応しい姫。ずっと兄上が女性に求めていた条件。
「そう堅苦しいことを言うな」
「しかし、いくらユーリ様が次の水の季節には国に還られるとはいえ」
「イル、兄上達の時間は限られている。無粋なことなど言うものではないよ」
「…御意」
 ひとつ頭を下げると立ち去った。
 残された時間は僅か。
 ユーリを還してしまえば兄上は以前のように姫君の間を渡り歩くようになるのだろうか。
 ユーリ以上に兄上に穏やかな表情をさせる姫がいるのだろうか。
 ユーリ以上に愛しいと思える姫を見つけることができると思っているのだろうか。
 二人の姿は夕日に照らされ鮮やかに浮き上がり、影は色を濃くして二人を隠す。
 わたしが送った琥珀の耳飾りがきらきらと揺れている。

                     END
  

     

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