ナッキー☆エキサイト


「ねえ、私最近きつくなったと思わない?」
 手鏡を見ながら、訊ねる。
「姫さまは、前からきついですよ」
 縫い物から顔も上げずに侍女が言った。
 ナキアは、つり上がった目で、侍女を睨み付けた。
「私は、子供ができて、顔がどう変わったか聞いてるの!男の子ができると、きつくなるって言うじゃない!?」
 侍女は、ぶつぶつ言いながら針を引き抜いた。
「べつに、皇子でも皇女でも、お元気なら良いではありませんか」
「分かってないのね?この国の皇統を嗣がせるには皇子が必要なのよ・・・おまえ、なにを縫っているの?」
 侍女が抱え込むより早く、奪い取る。
「・・・!!はらまきはしないって、言ったでしょ?」
「はらまきじゃありません、腹帯です!!」
 侍女は奪い返そうとするが、ナキアははらまき(腹帯)を高くかかげた。
「はらおび?なによそれ?」
「妊娠されている方がお腹に巻くモノですよ」
 ぴょんぴょん飛び上がりながら、ようやく布の端を掴むと侍女はそれを奪い返した。
「巻くと、男の子ができるの?」
「巻くと、子供が小さくなって安産なんです」
 なんだ、つまらないわとナキアがぶつぶつ言う。
「・・・どうしてそんなに男の子にこだわるんですか?」
「おまえ、バカね」
 ナキアは椅子にふんぞり返った。ぜんぜん変化のないお腹を突きだしてみせる。
「皇子だと、将来は皇帝になれるわ」
「ムリですよ」
 侍女は、もういちど腹帯に取り組み始める。
「陛下には、もう5人も皇子がおられるし、うち二人は正室腹です」
「私は、バビロニアの王女よ!!」
「でも、側室ですわ」
 ナキアがぎりぎりと歯がみしたとき、遠慮がちなノックの音がした。
「誰!?」
 完全なやつあたりで厳しい声で訊ねると、おずおずと声が応える。
「あの、ヒンティさまからのお届け物です」
「まあ、皇妃陛下から?」
 さっと、侍女が立ち上がった。素早く腹帯を丸めると胸に押し込んだ。ナキアに踏まれないようにするためだ。
「どうぞ、このようなところに・・」
「このようなって、私の部屋よ!!」
 叫ぶナキアを無視して、扉を開く。
 侍従が、深々と頭を下げた。
「このたびのナキア妃のご懐妊のお祝いの品です」
「まあ、なんてお優しい方なんでしょう!!」
「大事なお体、くれぐれもいたわられるようにとの御伝言です」
「本当に、素晴らしいお方!!」
 感極まって眼を潤ませている侍女に、ナキアはふんと鼻息を吐いた。
 それでも一応、運び込まれた箱をじろじろ見る。
「何が入っているのかしら!?」
 侍従に礼をして見送ったあと、侍女が弾んだ声で振り返った。
「開けてみれば?」
「よいのですか?」
 さっさと蓋を持ち上げる。歓声がもれた。
「まあ、上質の布ばかり。産着やおむつが縫えますわ!!」
「実用的すぎて、芸がないな」
 一応のぞき込んだがすぐに興味を失ってナキアは言った。布は白い物ばかりで、心弾むものではなかった。
 侍女は箱に手を突っ込んでしばらくごそごそしていたが、やがてあるものを引っぱり出した。
「ご覧下さい、姫さま!ヒンティ様はなんてお気遣いのある方なんでしょう!」
 侍女の手に握られたそれを、ナキアは眉を寄せて見つめた。小さな人形のような赤い物。
「なんだ、それは?」
「知らないのですか?」
 うっとりと抱きしめながら侍女は言う。
「これは『さるぼぼ』といって、安産のお守りです。側室ごときにこのようなお心遣いをいただくなんて・・・」
「側室ごときとはなんだ!!」
 ナキアが椅子をけ飛ばそうとしたとき、またもやノックの音がした。
「何やつ!?」
 とばっちりを受けて、外の声が震えた。
「ナキア妃さまに、ご実家よりお祝いのお届け物です」
「実家だと、バビロニアか?」
 こんどはナキアが扉を開けた。立ちつくす侍従の手から小箱を奪い取る。そのまま足で扉を閉めると、侍女に向かって箱を掲げた。
「ご覧、お母さまからよ!我がバビロニアがヒッタイトの田舎者よりどんなにセンスの良いモノを贈り物にするのか見ればいいわ」
 言って、蓋を投げ飛ばす。箱の中から掴みだしたものは・・・
「まあ、大きな『さるぼぼ』・・」
 侍女がぽかんと、口を開けた。

                           終わる。    

 ←画像提供「さるぼぼSHOP」さま  

         

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