わたしの口
byマリリンさん
「ねえ、カイルお願いがあるんだけど・・・」
「うっ どうせまたろくでもないお願いだろう・・・・」
と心の中では思うが
「なんだ?。なにがほしい。なんでもプレゼントするよ。」
とおきまりのセリフが口から飛び出す。
ああ、何言ってんだ。私の口
ドレスでも、宝石でもいい。どんなに高くてもいい。何だったら離宮のひとつやふたつ喜んでプレゼントしようじゃないか。
頼むから頭痛の種になりそうなお願いは、やめてくれ。
毎回思うが、いつも期待は裏切られる。
「とと丸のお嫁さんがほしいの。で、ね・・・・・・」
「わかった。イル・バーニに言っておく。皇妃寵愛の魚にふさわしい美魚を連れてくるようにと」
言うが早いかキスをして、次の言葉を封じる。
うん、たまには役にに立つぞ、私の口。
しかし、敵もさるもの。黙ってキスに応えていたが、キスが終わるやいなや
「子ども達と私が捕まえに行くわ」
と言った。
「だめだ。」
「どうしてえ、いいでしょう。お願い」
でたっ イル・バーニのいう”皇帝殺しのポーズ”
だんだん、パワーアップしているぞ。この必殺おねだりポーズ。
思わずグラッと来るが、眼をそらし体勢を立て直す。
「これからずっと公式行事が続いている。皇妃が出席しないわけにはいくまい?」
ああ、なんと説得力のない理由。
キッズワトナからの使者の接待を抜け出して(放りだして)とと丸を釣りに行った皇妃に言っても無駄なだけだ。
頭をフル回転させる。が私の口から出たのは、情けない言葉だった。
「とと丸と私とどっちが大切なんだ。」
「は?」
「とと丸と私とどっちが大切なんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
おーい、なぜ、そこで黙り込む。なぜ私のほうが大切だといってくれない。
しかし、捕まえに行くのはあきらめたようだ。ま、よしとしようか・・・・・・・
イル・バーニが何匹か、とと丸のお嫁さん候補を用意した。
3人でワイワイやっていたが、やっと決まったようだ。
「とうしゃま、見て。ととまゆのお嫁しゃん。」
「随分、小柄で色気のない魚だな。もっと、ふっくらグラマーな魚はいなかったのか?」
はっと、口を閉じたがもう遅い。ああ、ばかな私の口。
「そうね。カイルの好みはふっくらグラマーだものね。」
つんと横を向いたユーリ。
私の顔色が変わったのを見てデイルが助け船を出してくれた。
持つべきものは、賢い息子だな。
「ぼくと、ピアで決めたんですよ。とう様、かわいいでしょう?」
「ああ、かわいいな。」
そこでやめておけばよかったのだが、私の口は止まらなかった。
「息子は母親の面影を求めるものなのかな?」
「どうせ私はチビで色気がありませんよ!」
ユーリが服の裾を翻して立ち去った。
あわわ、そんなつもりで言ったんじゃない。
ユーリ、待ってくれえ。
その夜、ユーリは呼んでも寝所に現れなかった。
代わりに現れたのは、ふっくらグラマーな・・・・魚・・・だった。
まだ、怒っているのか?”ふっくらグラマーが好み”この言葉には、一生悩まされそうだな。
今度は、”すべすべの肌が好み”と言ってみようか?
いや、やめておこう。
すべすべのお肌だよと言ってデイルとピアが現れるかもしれない。
私は、水槽を恨めしげに見ながら寝た。明日は池に放してくるよう命じなくては・・・・・・・・
「なんで、あんな魚のためにユーリが私の側から離れなければならないんだ」
ため息をつく。
「魚ではなく、とう様の口のせいでしょう?」
とデイル。
鋭い指摘だ。賢い息子を持つと苦労する。
「にいしゃま、ととしめをととまゆのとこ、つれてくよ。はやく、はやく」
脳天気なピアの声がする。
「ととしめ?」
「ああ、昨日名前を付けたんですよ。とと姫って。ほら、とう様も行きましょう。」
「いや、ちょっとムリみたいだな。」
視線の先にむずかしい顔をしたイル・バーニの姿が見える。
3人の歓声に惹かれながらも、私はイル・バーニに追い立てられるように執務室に向かった。
私の口はため息をつくしかなかった。
おわり
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