yukiさん奥座敷にて14000番のキリ番ゲットのリクエストは「ユーリの脱走を尾行するカイル」あんな人が尾行したら、目立つよ・・・


ミラクル・クッキング


 ユーリは小さい。
 そのことが不満なわけでもないし、それはそれでかわいいと思っているが、今回のような場合には不便だ。
 なにしろ、すぐに人混みに紛れてしまう。
 私は伸び上がり、重なる頭越しに、黒髪が揺れているのを確かめる。
「姉さん、珍しい布があるよ!」
 被っている布が引かれる。
 無礼な!
 私が、その髭面の商人を睨みつけると商人は首をすくめて手を離した。
「でかいオンナだなあ」
 背中を声が追ってくる。
 私はオンナではなく、この国の皇帝だが、いまは変装中だ。  
そして顔を隠すために女物の布を被っているので、女装中ということになるらしい。
 なんだって、こんなことに。
 私は黒髪の見えたあたりに、乱暴に人混みをかき分けながら進んでいく。


 ことの起こりはは、朝見の儀の奏上にあった。
 当方から珍しい荷を積んだ商人の一行がついたと、報告がある。
 私はいつものようにうなずき、他国の間者が紛れ込んでいる可能性もあるために注意を怠らないようにと命じる。
 その言葉を記しながら、官吏がよけいなことを口にした。
「どうやら、遠く東方からの品も運ばれたようです」
「東方ですって?」  
 皇后の席から、ユーリが身を乗り出した。
「ユーリ」
 私は咳払いをした。
「まさか市を覗いてみようなどという気を起こしたのではないな?」
「ダメなの?」
 ダメに決まっている。いったい私の横で何を聞いていたのだ。他国の間者が紛れ込んでいるのかも知れないのだぞ?
「危険があるかも知れない、だめだ」
 ユーリはあからさまに不満げな顔をした。  
「お前が東方の品物に興味があるのは分かるが」
 女官をやっていくつか買い求めさせてもいい、と私は言おうとした。
「・・・分かったよ」
 あっさりとユーリは納得して見せた。
 これは、要注意だ。
 ユーリは脱走する。いままでの私の経験がそう告げる。
 疑いのまなざしを向けた私に、澄ました横顔を見せながらユーリが次の奏上を指示していた。


 で、脱走だ。
 ハディや双子にユーリを見張るようきつく申し渡したために、たった一人で脱走を決行した。せめて供なりとつけて欲しかったのだが。
 しかし、それを予想しない私ではない。
 ユーリに対する甘さのために出し抜かれるハディ達を見越して、こうして後をつけている。
 王宮の石垣を乗り越えた時点で拉致しても良かったのだが、そうすれば不満は残りまた脱走は繰り返されるだろう。
 とりあえず、市まで行かせるつもりだった。
 女装して、こっそり後をつける。
 なかなかスリリングだ。


「お嬢ちゃん、東の海の魚だよ!」
 若い男が、ユーリに親しげに話しかけている。
 なんという無礼さだ。
 いま、腕に触れたのではないか?
「なんの魚?」
 ユーリが桶をのぞき込んでいる。
 やめろ、ユーリそいつは怪しいぞ!だいたい、東の海の魚がこんな所まで生きているはずが無いじゃないか。
 ユーリは軽く笑い声を立てて、次の店に足を運ぶ。
「おばさん、これなあに?」
「これはね、薬になる食べ物だよ」
「ええと・・・漢方薬かな?」
「こっちは冷え性に効くよ。こっちは疲れたときに」
「疲れたときに?」
 ユーリは大きなとかげの干したものを手にとってしげしげと眺めている。
「ああ、刻んで粥に入れるといい」
「お粥に?」
 ・・・ユーリ、まさか私の食事に入れるつもりではないな?
「お嬢ちゃんは疲れているようには見えないがね?」
「う・・ん、あのね、あたしの・・夫のお仕事がタイヘンなの」
 夫・・私のことか!?
「お嬢ちゃん?こりゃあ、奥さんだったかね」
 そうだ、私たちは夫婦なのだ・・と喜んでいる場合ではない!
「すると、ご亭主は疲れていると」
「・・みたい」
 店の女主人はにたりと笑った。
「そりゃ、いけないね、良い薬があるよ」
 今のは、絶対なにか誤解している。
 自分が何を言ったのか分かっていないユーリの前に、まか不思議なものが積み上げられていく。
「これはね、どんな亭主でもたちまち元気になる」
 乾し肉のようなモノを見せながら女主人は声を潜めた。
「スープにするといい」
「スープ?」
 奇妙な形の果実。
「これは、パンに入れるといいね」
「パンなら得意だわ!」
 ・・・得意!?
 私の顔から血の気がひいた。もしやユーリはあの怪しげな食材で料理をするつもりなのか?
「他に、なにがあるの?」
 ああ、間違いない。そのつもりだ。
「体の調子を整える・・」
「それもパン?」
 私は、先ほどから私の腕を掴んであなたのような美しい人は今までに見たことがないとか、ここで会ったのは運命だとか、ぶつぶつ言っている男を振り払うと猛然と人混みをかき分け始めた。
「これ、もらうわ!」
 ユーリの澄んだ声がする。
 やめてくれ!
 私は食べないぞ!
「ユーリ!」
 息を切らして、ユーリの前に立ちはだかる。
「カイル、どうしてここに?」
 ユーリが目を丸くする。すぐに、ばつの悪そうな表情になった。
「抜け出すつもりはなかったんだけど・・」
 いいや、大いにあったな。
「おや、あんたのご亭主かね?」   
 女主人がにこにこ顔で割り込んだ。
「そう目くじらをたてるもんじゃないよ、あんたのために買い物に来たんじゃないか」
 そして、ユーリの腕に、干物を押し込んだ。
「かわいい嫁さんじゃないか」
 そんなことは言われなくても分かっている!
「ごめんなさい・・カイル」
 ユーリが、消えそうな声で言った。・・・うっ?
「あのね、あたし・・・」
「もういい、帰るぞ」
 だめだ、これ以上ユーリの顔を見ていたら・・叱れない。
 背中を向けた私の前に、ユーリが回り込んできた。
「カイル、あたしカイルのためになにかしたいの!」
「おまえはいつも、よくやってくれているよ」
 やりすぎるほどに。
「ホントに?」
「ああ」
 ・・・嫌なパターンだ。
「あのね、カイル・・・」
 ユーリが頬を赤らめて言った。
「あたしが作ったお料理・・・食べてくれるかなあ?」
 ・・ユーリの料理・・怪しげな材料で・・・。
 ユーリが小首をかしげて見上げている。腕の中からは、とかげの干物やイタチようなものや、のたくった細長い野菜がこぼれ落ちそうだ。
 これを・・・食べるのか?
 けれど、私の口はいつもと同じ過ちを繰り返す。
「もちろんだよ、嬉しいよ」
 明日になったら、商人は全員城壁外へ追放だと思いながら、私は微笑んだ。


                    おわり 
   

     

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