夢渡り

                by yukiさん

 ここのところあたしは毎晩夢を見る。
あたしにとって一番安らげるカイルの隣で夢はあたしを苦しめる。
 カイルの隣で生きると決めるまでの日々はいろんなことがありすぎて夢をみる暇も無かったのに。


 華やかな宴。
 宴の中心にいるのはカイル。それにカイルの正妃となった女性。
 あたしは宴の席には入れない。側室だから。
 ここからは姫君の顔はよく見えないけれど、ベールから透けて見える髪は黒く小柄で華奢な女性みたい。
 歓談するカイルの視線がふわりと泳ぎ、あたしの視線と交差する。
 微笑はくれてもその手を差し伸べてはくれない。
 カイルが手をとっているのは正妃となった女性。
 柔らかな微笑みをたたえて正妃の手を取っている。
 あたしの居場所はどこなんだろう?
 カイルのいるところがあたしのいるところだと思っていたけど、今のあたしはこうやってカイルの姿を目で追うことしか出来ない。
 宴も終わり広間から人がほとんど出て行った頃、カイルがゆっくりとこちらにやってくる。
 穏やかだけど決意を潜めた瞳をして。
 ひとつ息を吸い込んで話し出す。
「わたしには正妃とすべき女性が見つかった。
 わたしは正妃となる者には厳しい要求をするかわりに、正妃ひとりを愛しぬくと誓いをたてていた。
 これからは正妃ひとりを愛していくつもりだ」
「え…?」
「どういうことか分かるな?」
 穏やかだけど強い意志を瞳にこめてカイルはあたしを正面から見据える。
 それはもうあたしはカイルの側にいられないってこと?
 胸が痛くて苦しくて、どきどきと嫌な鼓動が止まらない。


 胸が苦しくて息が苦しくて目を開けると、隣には寝息をたてているカイルの姿。
 あたしがいるのはいつものカイルの寝所。カイルの寝台。
 冷や汗をかいたあたしの体。
 夢…?あれは夢?
 夢から覚めたのだと、現実だと確かめたくてカイルの頬に触れてみる。
 暖かい肌の感触。頬にかかっていた髪を梳いてみる。
「…どうしたユーリ?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「そんなことは気にしなくていい」
 あたしの腕を引いて胸に抱きこむ。
「どうしたんだ?こんなにも汗をかいて。
 それに体も冷えてしまって…」
「何でもないよ、ちょっと夢見が悪かったみたい」
「一体どんな夢を見たんだ?」
「………。
 カイルはもうどの姫をご正妃にするか決めた?」
「………。それと夢と関係があるのか?」
「ううん。聞いてみたかっただけ」
「大丈夫。おまえは何も心配などする必要は無いよ」
 カイルの胸に抱きついて、その体温を感じている間は安心できる。
 あたしの背中をしっかりと抱いて額にキスをする。
「もう嫌な夢をみないといいな」 
「うん…」
 夢を見るのは恐いのに、あたしはうとうとと眠りの中に落ちていく。


 あたしはどこにいるんだろう?
 まわりにはたくさんの人がいる。でも王宮じゃないみたい。
 状況が把握できないあたしのまわりで歓声があがる。皆の視線の先にあるのはカイルの姿。
 皇帝としての正装をして、神殿前で女性の手をひいて立っている。
 ああ、カイルはあの女性を正妃にしたんだった。
 だからあたしはカイルの側にいられなくなったんだ。
 民衆の祝福に二人は手を振ってこたえている。
 あたしはどこにいけばいいんだろう?

 景色が変わる。
 今度は後宮の一室。
 目の前にはベールを被った一人の女性。
 誰かに教えてもらったわけじゃないけど彼女だという確信がある。
「あなたはカイルのご正妃になった人?」
 目の前に立っている女性が振り返る。
 そこにいたのは…。
 目の前には幸せそうな笑顔の自分。
 なんで?あたしはここにいるのに。
 なんで?あたしはカイルのご正妃にはなれないはずなのに。
 あたしは何がなんだか分からなくなって手を伸ばす。
 もう一人のあたしも手を伸ばす。
 指先と指先が触れ合う。
 鏡のこちらと向こうに全く違う自分がいる。
 

「ユーリ!大丈夫か!?」
 目の色を変えたカイルの顔が目の前にあった。
「…カイル?」
「よかった。おまえの体がどんどん冷えていくから何かあったのかと心配したんだよ」
 安堵のため息を吐き出し、強く抱きしめられる。
 あたしはまた冷や汗をびっしょりかいて、冷えた体をしていた。
「どうした?また夢をみたのか?」
「…うん…」
 夢の中であたしはカイルのご正妃に会った。
 あれは誰だったんだろう?

                   END 

         

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