父のモノローグ

                    by仁俊さ

わしの名はタロス。
ハッティの族長で、三姉妹とティトの父親だ。
末っ子のティトは当時のナキア皇妃の陰謀に巻き込まれて殺されてしまったが、3人の娘は皆ハットゥサの後宮で現皇妃のユーリ様に仕え、元気にやっているらしい。
リュイとシャラは皇帝側近のキックリのところへ2人揃って嫁に行きおった。
あんな、いつも眠ったような目をしている頼りなさそうな男の、どこが良かったのだろう?
けれどもまあ、あの2人は仕方が無い。
小さい頃からわしの言う事なんぞ、聞いた例が無かったからな。

しかしどうして、わしの娘たちは、そろいも揃って男を見る目が無いのだ?
今回、最後まで残っていた長女のハディも嫁に行くことになったのだが、相手はなんと、こともあろうに、あの冷血漢のイル・バーニだった。
その知らせを初めて聞いた時には我が耳を疑ったものだ。
アリンナのわしの家に前触れもなく牛だの山羊だのをゾロゾロと連れてきて、娘を嫁によこせなどと言う男だぞ。
「陛下が以前ユーリ様を神殿から貰い受けた数に因んで」
とは、どういう意味だ!?

ああ、ハディ。
妻を失った我が家で母親代わりとして家事を行い、ティトを育ててくれた、わが最愛の娘よ!
あんなヤツの、どこが良いのだ?
「父さんには、あのひとの素晴らしさがわからないのよ!」
だと?
家の事にかまけていて男の怖さを知らないお前を、誰がケダモノのような男たちから必死になって守ってやっていたと思っているのだ!
そのせいで婚期が遅れたことは、悪いと思っている。
だからこそ甘えん坊のティトをお前から引き離して、当時のカイル殿下の宮に送り出したんだぞ。
ああ、しかし何もかもが裏目に出てしまったようだ。
ティトは冥府に送られ、お前までが不幸への道を歩もうとしている。
わしの判断は、間違っていたのだろうか?

過去を振り返ったところで、何が変わる訳でもないな。
死んでしまった者は、今更どうしようも無い。
けれどもハディ、お前だけは何とかして救って見せるぞ。
おやじパワーは、不滅だ!



今日もイル・バーニが書簡を送ってきた。
このところ、毎日だ。
読んでやるもんかと思いつつも、やはり内容が気になって開封してしまう。
仕事以外の事に関しても、意外にマメなヤツだ。

いやいや、わしまでが騙されてはイカン。
ヤツは油断のならない相手だからな。
今回の書簡攻勢も、作戦なのかもしれない。
・・・とは言え、あの男も焦っているらしい。
だが、ヤツの本心が判るまでは、返事も出してやるもんか!



ん?・・・今日の文面は、やけに素直だな。
そうそう、ハディは、そういう娘だ。
あのカタブツも、意外にわかっているではないか。
まあ、ウチの娘の気立ては天下一品だからな。

はっ!いかん、ニヤケている場合ではない。
何しろ、相手は悪知恵のカタマリみたいな男だ。
冷静に、冷静に・・・。

おやおや、そんな事を書いてしまって良いのか?
書記のクセに、言質と言う言葉を知らぬ訳でもなかろう。
ましてや正式な書簡という形にしてしまっては、言い逃れのしようもあるまいに。
・・・ひょっとして、本気で惚れてしまっているのか!?
煮ても焼いても食えそうに無い、あの男が。
そこら辺の悪ガキにでも簡単に騙されそうなほど人の好い、あのハディに?



とうとう返事を書いてしまった。
珍しく3人揃って里帰りしてきた娘たちに押し切られる形で。
下の2人からイロイロ言われても大して堪えなかったが、当のハディに泣きつかれ、
ついにはユーリ様にまで出てこられては致し方ない。

だが、くれぐれも言っておく。
わしは本当は不本意なんだぞ!!!



ああ、行ってしまう。
そんなに幸せそうな顔をしないでおくれ。
母さんソックリの顔で、わしを苦しめるな。
辛い事があったらいつでも・・・いや、どんなに幸せでも、たまには帰って来るんだぞ!
来なかったら、わしが押しかけて行くぞ。



有力貴族との縁談が、またヤツのところに来ているそうだな。
諦めの悪い人種だ。
もう何度も断られているだろうに。
平民の妻1人だけというのが、どうも気に食わないらしい。
陛下の分のとばっちりもあるようだ。
ムキになっているから尚更、始末に終えない。
お前はソレを気にしているんじゃないのか?
やつれた顔をして・・・“大丈夫”じゃないだろう、その顔色は。



今日は良いモノを持ってきてやったぞ。
もっと早く持ってきてやれば良かったかもしれないな。
だが、これを渡すと、ヤツがお前との結びつきを強くするのを手助けするようでイヤだったのだ。
けれどもお前の辛そうな顔は、もう見たくない。
しゃくな話だが特効薬は、これしかあるまい。

おいおい、そんな目立つところに飾ってどうする!?
わしの裏切りがバレバレ・・・いや、ソレがヤツに見つかったら、すぐに取り上げられてしまうのだぞ。
それでも良いのか?
・・・そうそう、隠しておきなさい。
それから、スキップはやめろ。

やれやれ、思った以上の喜びようだ。
もう一泊していくつもりだったがイル・バーニに気付かれないためには、わしがいない方が良かろう。
来月の訪問もガマンするしかないか。
大根役者が2人も揃っていては、ボロが出るのも早いからな。
まあ、バレたらバレた時の事だが。
あんなヤツとの男同士の信義より、娘の方が大切に決まっておる!
ハディの手許にアレがあるのを知ったイル・バーニが、どんな反応を見せるかも楽しみだしな。

お前が結婚して、もうすぐ1年か。
よく頑張ったな、ハディ。



「父さん、また来たの?」
とは何て言い草だ。
ここに来るのは2ヶ月ぶりだというのに。
以前のお前は、そんな事を言う娘じゃなかった。
親の言う事をよく聞く、いい子だったのに。
夫婦仲が上手く行っているからといって、親を邪魔者扱いする事はないじゃないか。
老いた父に冷たくしないでおくれ。
なあ、ハディよ・・・。



キックリから、また書簡が来た。
あいつも、マメな男だ。
ハディの様子を、事細かに書いて送ってくる。
まあ、舅のわしから頼んだのだがな。
・・・ウチの娘たちは、マメな男が好みなのか?

しかし、あの目無し男。
まだリュイとシャラの区別がつかないらしいな。
あんな間抜けな男の、どこが良いのだ?
わしの娘たちは本当に、そろいも揃って男を見る目が無い!
ああ、ハディ・・・。

          (続かない)

      

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