よろよろウィンター
朝、目が覚めたとたんに死にたくなった。
ひとつは、頭が割れるように(大げさだと思うけれど、本当にその通りなんだから)痛かったから。
もう一つは、昨日の失態。
やだやだやだ。
よりにもよって、カイルにあんな所を見られるなんて・・。
だって、『チャンチキおけさ』だよ?
「ユーリ、起きたのか?」
となりで、カイルの優しいだろう声がした。
推定形になっているのは、声にエコーがかかってあたしの頭蓋骨をものすごい音量で揺さぶっているから。
枕に顔を埋めて反響音に耐えているあたしの髪を、カイルは撫でつけた。
「待っていろ、いま薬師を呼ぶから」
ああ、バレてる。
たった一杯のワインだったのに。お風呂に入っていたのがいけなかったのかな?
カイルの腕が、あたしを抱き起こした。
朝の光がまぶたに痛い。身体にも痛い気がする。
目をつぶったまま陽が翳るのを感じると、覆いかぶさってきたカイルの唇が押しあてられた。
むむむ・・・まずい!!
吐き気がするほど苦い液体が喉に流し込まれる。
「げほっ!」
「さあ、水だ」
今度は冷たいカップの縁。
あたしは、ひたすら水を飲んだ。
苦いのを流し込みたいのと、やたら喉が乾いていたのとで。
「もう少し休んでおいで」
細心の注意深さであたしの身体を敷布の上に戻したカイルが、ささやく。
情けなさに涙がにじんだ。
当初の計画では、ひなびた温泉で(結構有名な保養地だけど)、二人っきりで(お付きやら護衛やらで一行は30人くらいいるけど)、さしつさされつ(あたし一人が酔っぱらった)、しっぽりと大人の雰囲気で(『チャンチキおけさ』なんか歌ってしまった)過ごすつもりだったのに。
なのに、なのに、どうして二日酔い!?
ああ、頭が痛い!
吐き気もするし。カイルはあきれてるだろうし。ハディ達だってあきれてる。それより昨日、ここまで運んだのはカイルかな?やだ、あたし裸だったんだ。まあ、今さらだけど。でも、途中衛兵達はどう思ったかな。温泉なんか来なければ良かった・・・
「せっかくカイルお休みなのに」
自分の声で目が覚めた。いつのまにか、うとうとしていたらしい。
・・・頭は・・だるいけど、痛くはない。
「どうだ、ユーリ?」
カイルの声がした。響かない!!
『良薬口に苦し』って、本当だ。効いたんだあの薬。
あたしは、相変わらず頭を撫でているカイルの顔を、やっとまともに見上げた。
部屋の中の光の色が違っている。
朝・・じゃない、この柔らかさはもうお昼?
「あたし、どれくらい眠ってたの?」
かすれた声が出た。後遺症かな。
「少しの間、だな」
カイルは、微笑んだ。
もしかして、ずっとそばにいてくれたわけ?
「・・・ごめんね、せっかくのお休みに・・退屈だったでしょう?」
あたしなんかにつき合わせて。
カイルはくしゃくしゃと髪をかき回した。
「おまえを見ていたんだ、退屈なわけないだろう?」
ああああ!
今、赤くなったのが自分でも分かる!!
やばいよ、きっと昨日のお酒が残ってるんだ。
上掛を引き上げようとしたあたしの手首をカイルが押さえた。
「隠れて私を退屈させるつもりか?」
声にいたずらっぽさが混じっているのは、気のせいじゃない。
あたしは顔を背けながら、そっと上掛の端を持ち上げた。
入ってきてもいいよ、の合図。
すぐにカイルがごそごそと入り込んで、あたしの身体に腕をまわした。
「ねえ、カイル」
カイルの胸に顔を埋めながら、あたしは訊ねる。
「みんな、昨日のことどう思ってるかな?」
「決まってるだろう?」
カイルの声までかすれ始めたのは、不思議。
「冬なのにお熱いことだ、だな」
おわり
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