某所にキリ番用に書いたけど、そのまま流用・・







 夜の気配が不意に身体を包み、肌寒さにユーリは身を震わせた。
 うっすらと目を開ければ、包むように寄り添っていた熱い身体がない。
「・・・・カイル?」
 天蓋にゆらゆらと影が揺れる。隔てられた室内には、闇を退けるように灯りがともされている。
 影は、身をかがめたようだった。弧を描く動きに魅せられたように、目がそらせなかったユーリは、やがてゆるゆる体を起こし、帳に手をかけた。
「カイル?」
 口の中で転がすように、一人だけにと許された名を呼ぶ。
「ユーリ、起きたのか?」
 振り向いた顔は、いくらか心配そうだ。
「動けるのか?」
 部屋の中程には、着衣を落としたカイルがいて、その手には白い細布が握られている。
「う・・ん・・多分、大丈夫・・」
 動けば鈍い痛みが感じられたが、そろそろと床の上に足をつく。ひやりとした感触が、足の裏に心地よい。
 視線が、身体の上をすべり落ちるのを感じながら、そばに歩み寄る。
「なに、してるの?」
 カイルの手の中の布は、宵からずっとそばで見ていたものだった。彼の胸を包んでいた、包帯。時に近づき、遠のきながら、見上げるそばで鼓動を刻んでいた。
「怪我、してたんだよね」
「心配ないさ」
 広い背中が向けられる。数歩進めば、手が届く。
 迷わずに歩むと、手をかける。
「替えるんでしょ?手伝うよ」
 するりと奪うと、ところどころに染まる跡に気づく。
「傷口、開いてる?」
「たいしたことはない」
 否定の言葉に、拗ねたような気配が混じるのは気のせいだろうか?
 かすかに眉をひそめながら、手早く残りの布を巻き取る。現れた傷口は浅くなく、血の色をにじませていた。
「だめだよ、無理しちゃ」
 見まわすと、真新しい包帯と薬が用意されていた。手桶の水を引き寄せる。
「手当するね」
 傷に布をあてる。細心の注意を払いながら、縫合の跡をなぞる。
 知らない間に、涙ぐむ。
「ユーリ?」
「ごめんね、あたしのせいで」
 兵力を削ぐ理由を作ったことを詫びる。
「おまえのせいではないよ。軍の差配はすべて私の責任に置いて為したこと」
 それに、とカイルは笑う。
「おまえを手に入れられたのだから、こんな傷たいしたことはない」
 ゆっくりかぶりを振りながら、ユーリは包帯を巻いた。
「でも、また傷口が開いたのは、あたしのせいでしょ?」
 布の端を押し込むと同時に腕がまわされる。竦んだ身体が、ふわりと浮くとすぐに寝台の上におろされる。
「たしかに、おまえのせいかもしれない」
 耳朶に熱い言葉が吹きかかる。過ぎた時を思い出して目尻に浮かんだ涙に、軽く口づけると、カイルはユーリを解放した。
「・・?」
 ユーリは半身を起こすと、引き返したカイルを見送る。やがて、手桶を持つ彼をいぶかしげに見上げた。
「おまえも、手当しなければな」
 言ってそばに腰を下ろした。
「・・・手当って?」
 琥珀のまなざしが、真剣味を帯びた。
「脚を・・・開いてごらん」
 真摯な言葉に拒むこともできず、ユーリはおずおずと立てた膝を開いた。
 すぐにカイルの手がかけられる。
「身体を横にして、楽にして・・・やはり、出血しているな」
 さらされることのなかった場所を見つめられて、思わず脚を閉じかける。カイルの手が、強くはばんだ。
「傷つけてしまったな、すまない」
 あわててかぶりを振るが、言葉はでてこない。躊躇の間に、浸された布が内股をぬぐう。
「・・・!!」
 考えていたよりはるかに深く傷ついていたのか、触れられると身体が強張った。
 枕を引き寄せ、顔を埋める。歯を食いしばり、悲鳴を堪える。
 カイルの指が、傷跡を確かめるように探ってゆく。痛みとは別の切なさがこみ上げてくる。
「薬を塗ろう・・・多少、しみるぞ」
 ユーリの変化に気がつかないはずはないのに、あっさりと解放する。
 枕を抱きしめたまま、次の刺激に身構える。膝のふるえが止まらない。
「痛むか?」
 言葉に、ならない。体内に治療が施されて行くのを、ひたすら耐える。指は繊細な動きで、わずかの傷跡も逃さないように薬を塗りつける。
「よく、我慢したな」
 カイルが、そっと枕を取り上げたとき、ユーリの肩は激しく上下していた。
 潤んだ黒い瞳をのぞき込みながら、カイルがささやく。
「この傷は、私のせいだ」
 どうしようもなく熱を帯び始めた身体をすりよせながら、ユーリはかぶりを振った。
「カイルのものになれたんだから、こんな傷たいしたことないよ」


                  おわり     

     

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