膝枕

                                    byまつ



 ここはヒッタイト王宮、正妃の間。
 俺は、めずらしく母と二人きり、親子水入らずのひと時を過ごしている。

「いいの?ピア。こんな所に居て」
「いいんですよ。母上。たまにはこうさせて下さい。」

今は火の季節、この時期、昼間はとても暑いので、昼寝をする習慣がある。俺は、母に膝枕をしてもらっている。

「まぁ。いつからそんな甘えん坊になったのかしら?」
「子供の時からいつも父上に独占されて、こうする事も出来なかったのですから。俺たち兄弟は皆、随分くやしい思いをしたのですよ。」
「えっ・・・そうだったの・・・それは悪い事したわね・・・」
「ええ、だから今甘えさせてもらっているのですよ。当分顔も見れなくなるのですから・・・」

 俺は、父上の命で、カルケミシュ知事になることが決まっていた。

「いつカルケミシュに行くの?」
 母の顔が曇る。大きな黒い瞳が語っている。本当は行かせたくないのよ・・・と
「4日後ですよ。」
「そんな早くに?」
「これでも遅いほうですよ。いつまでハットウサにうろついているんだ!・・・って叱られているんですから。」
「誰がそんな事を?」
「そんなの決まってますよ。分かっているでしょう?」
「全く・・・2人共どうしようもないわね・・・いつまでたっても子供なんだから・・・」
「あのお二方にそんな事言えるのは、母上位なものですよ。」
「だって、そうでしょう。あなたとはしばらく顔どころか、声すらも聞けなくなるのに、そんな意地悪言ってどうするの。二人にはきつく言って置かなければ。」

どうやら、本気で怒っているらしい。母上は怒ると後が大変だからな・・・俺は父と兄に少しだけ同情した。

「でも、俺は感謝してますよ。お二人が政務に奔走しているお陰でこうして母上と一緒にいられるのですから・・・・」
「ピア・・・・」
「母上。いま暫くこうさせて下さい」
「ええもちろん。いつまでたっても、あなたはあたしの大事な宝物。可愛い息子よ。忘れないでね。」
 母が俺の頭をやさしくなでる。

 俺は、4日後にハットウサを発つ。与えられた任務は完璧に務めあげて見せますから・・・母上、それまでは、貴方の出来の悪い甘えん坊の息子でいさせて下さい。

 いつの間にか俺は、心地よい眠りに誘われていった。

                               おわり

      

     

    

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