いもうと

             byマリリンさん

「ととまゆ! ととまゆ!」ピア皇子が泣きながら呼んでいる。
 おれは、ピア皇子のただならぬ様子にすっ飛んで行った。

 涙をぽろぽろ流しながら、座り込んでいるピア皇子。
 どうしたんだ? 今日は待ちかねていた弟か、妹が産まれる日じゃなかったか?
 首を傾げるおれにピア皇子は言った。
「かあしゃま、赤ちゃん一人しか産まなかった。」
 へっ? 
「かあしゃま、あかちゃん一人しか産まなかったの!」
 まさか、ピア皇子は皇妃が5人ぐらい産むと思っていたとか?
「ととしめ、いっぱい産んでいたのに」
 あのなあ、ととしめとかあしゃまは違うんだぞ
 おっとつられてしまった。とと姫と皇妃は違うんだぞ。皇妃は一人しか産まないんだ。
「ピア、いっぱいほしかったのに。にいしゃまも ねえしゃまも・・」
 そりゃ、無理ってもんだぞ。これから先、妹か弟ならできる可能性もあるが・・・・・

 そう言えばと思い出す。とと姫が子供をたくさん産んだのを見て、ねだっていたな。
「かあしゃま、ピアね。ねえしゃまもほしいな」
「おとうとも、いもうとも、かあしゃまいっぱい産んでね。」と
 皇妃は笑っているだけで何も言わなかったが、それがいけなかったんだ。
 いくら小さい子供相手でも、きちんと本当のことを教えるべきだったんだ。
 おっと、こんなことを思っていてもしょうがない。

 話題を変えよう。
 妹だったのか?それとも弟だったのか?
「あのね、いもうとだったの。とうしゃま おんなのこがほしかったって喜んでた。」
 そうかよかったな。
 ピア皇子の目に新しい涙が盛り上がる。
 ど、どうしたんだ?
「ピア、おとこのこだから とうしゃま ほしくなかったんだ。」
 そ、それは違うぞ。デイル皇子もピア皇子も男の子だから、今度は女の子がほしかっただけで、
 ピア皇子が産まれるときは、男の子でも女の子でもいい、元気な子であってほしいと願っていたはずだぞ。
「しょうかな・・・・」
 そうだとも。おれは、必死にうなずいた。

 話題を変えよう。
 髪の毛や目の色は誰に似ていたんだ?
「かあしゃまといっしょだって、とうしゃま よろこんでた」
 再びピア皇子の目に新しい涙が盛り上がる。
 こ、今度は何だ?
「ピアだけ、かあしゃまとちがうの。だからとうしゃま、ピアばっかりおこるのかな。」
 な、なんでそんな話になるんだ?
 怒られるのは、しょっちゅういたずらしているからだろう?
 昨日も女官が悲鳴をあげていたぞ。
「あれは、ぽけっとに、ととまゆにやろうとおもった、みみじゅがいれてあったの!」
 そうだったのか、それは女官が悪い。ミミズごときで悲鳴をあげるような女官は首にすべきだ。
 で、そのミミズはどこへ行ったんだ?おれはもらってないぞ。
「ピア よそのこなのかな。」
 おれは、現実に引き戻された。
 何でそんなところまで話が飛躍するんだ?
 その頭の良さはいったい誰に似たんだ?
 皇帝によく似た外見で、中身は皇妃にそっくりで、二人の子供であることに間違いないぞ。
 おれは、いろいろと例を挙げ力説した。
「しょうかな・・・・」
 そうだとも。おれは、必死にうなずいた。
 ピア皇子はなにごとかじっと考え込んでいるようだ。
 へたに声をかけて、またとんでもないことを思いつくといけないのでおれは、しばらく見守っていることにした。
 それにしても、何を考えているのやら・・・

 かなり、時間がたったと思われるのにピア皇子は動こうとしない。もしかして考え事をしているのではなく眠っているのか?
 そうだよな、なんといってもまだまだ、こども。きっと朝早くから妹の出産を待っていたのだろうし・・・
 いろいろなことを話して少し落ち着いたんだろう。だが、困ったな。こんな所で寝てしまうなんて。

 急に水面が暗くなった。顔をあげると人影が見える。逆光になっていて誰だかわからない。
「とと丸悪かったな、迷惑をかけて。」
 この声は皇帝だ。
 迷惑だなんて思っていないがピア皇子のことも、もうちょっと考えてやれよ。
 皇帝が眠ってしまったピア皇子を抱き上げる。
「さっきから聞いていたんだが、出てこない方がいいと思ってな。それにしてもピアがこんなことを思っていたなんて。」
 おれも、正直言って驚いたよ。
「ユーリは私に似ているから怒れないといって甘やかしほうだいだから、いつも私が怒ることになってしまっているだけなんだが、」
 涙で汚れた顔を愛しそうに撫でる。
「さ、ピア かあ様が待っているぞ。「赤ちゃん ひとりだけ」なんて言って急に飛び出していくものだから、かあ様びっくりしてな。ピアを捜してきてと大騒ぎしてるぞ。」
 皇帝が肩に担いだピア皇子に話しかけながら歩み去る。
 ピア皇子はそっと顔を上げおれにありがとうの合図をくれた。
 聞かれていたと知った皇子は照れくさくて、しばらく眠ったふりをするつもりらしい。
 おれもそっと合図を送った。とくるりと皇帝がふりむく。おれは慌てて合図を引っ込めた。
 慌てるおれを見て皇帝は笑いを堪えている。

 ピア皇子、ばれてるぞ。おれは何とか伝えたかったが寝たふりをしているので伝えられない。
 ピア皇子、気をつけるんだぞー おれは、心の中で叫ぶしかなかった。


               おわり

      

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