キンドル・クッキング

              byマリリンさん


 あのあと、私たちは焼き栗をたくさん食べた。
 デイルやピア、ユーリも焼き方を覚えたようだし、これから栗が爆発することもないだろう。
 上から見下ろしていたイル・バーニにも届けさせたが、皇帝も皇妃も執務を放棄したわけだから、機嫌はすこぶる悪かったらしい。(キックリ談)

 私は、栗を焼きながら一つ思いついたことがある。
 ユーリは、パンを焼きはじめてから、私の苦労もしらずいろいろなモノに手を出している。
 デイルの離乳食も、ピアの離乳食も・・・
 あの時は、本当に苦労した。
 ぐちゃぐちゃの歯ごたえのない食べ物
 おいしいとは言えないユーリの料理がなおいっそう、迫力を増して・・・・・・・あのパンにも匹敵するまずさだった。
 救われたのは、柔らかいので飲み込みやすいことだけだったな。
 いや、思い出すのはやめよう。胃がきりきりしてきた。
 最近も、何かに挑戦しようとしている。それをユーリに気づかれずにやめさせるのにどんなに苦労しているか。
 それも、限界に近づいている。

 しかし、なにかをただ焼くというならば問題はないのではないか?
 くりは、切れ目を入れなければ爆発(?)してしまうが、芋が爆発したということは聞かない。
 我ながら、なんという良いアイデアだ。ユーリに焼き芋を作らせればよい。

「なあユーリ」
「ん?」
「最近何か作りたいと言っていただろう?焼き芋なんてどうだ?今、収穫時期だし・・・」
「そうね、うん、作ってみるわ。」
 嬉しそうにユーリがうなずいた。
「私、頑張るからね。」
 頑張らなくても大丈夫だよと言うのは、やめておこう。

 私は甘かった。
 ユーリに常識は通用しない。不可能を可能にするのがユーリだ。
 限りなく炭に近い焼き芋を見て、私は目眩を感じていた。
「ちょっと焼きすぎたかな?」
と明るく笑うお前の笑顔はまぶしいよ。
 だけど、この焼き芋(とユーリが言うもの)を口にしなくてはならないと思うと心は曇り、胃はきりきりと痛む。
「で、味見はしたのか」
とバカなことを訊く。
「唯一それだけが焼け残りましたので」
とハディ。ああ、いつか同じセリフを訊いたような気がする。
 残りはすべて炭になったというのか?ならばなぜこれも完璧な炭になってくれなかった。
 理不尽なこととは思うが、芋を恨めしく思う自分がここにいる。
 私は、意を決して焼き芋(とユーリが言うもの)に手を伸ばす。
 目をつぶり口元へ持っていく。炭のにおいがする。ああ炭を食べるなんて、今まで経験したことがない。
「とう様」
と呼ぶ声がした。と同時に飛びついてきたデイルのおかげで焼き芋が私の手から飛びだし
宙を飛んだ。床に落ちた焼き芋は、粉々に砕けた。(普通は砕けたりしないが)
「ど、どうしたんだ、デイル?」
ああ、私の声は喜びに弾んでいなかっただろうか。
「今日も栗を焼いてほしいの」
「焼き方を教えてやっただろう。」
「だって、焦げちゃったんだもの」
 手にしていたのは、炭となった栗だった。
 ああ、お前は確かにユーリの息子だよ。しかし、私の息子でもあるのだが・・・
 複雑な思いでデイルの手のなかの栗をみつめる。

 イル・バーニの視線が突き刺さる。
 しかし、私はイル・バーニを無視して、デイルとともに栗を焼くために立ち上がった。
 私を窮地から救ってくれた息子の願いを聞かないわけにはいくまい?
「ユーリ、お前もおいで。」
 忘れず声をかける。ついでに焼き芋の焼き方も教えなくては・・・・

 中庭では、ピアが落ち葉を蹴散らしながら遊んでいた。。
「とうしゃま。」
 ピアが駆け寄ってくる。手にはしっかり芋と栗の入った袋が握りしめられている。
「ピア、それはなんだ?」
「芋と栗だよ。」
 いやそれは知っているが・・・どうしてお前そんな物を手に持っているんだ?
「かあしゃまとにいしゃま、へたなんだもん。とうしゃまがくるの待ってたの。」
 にっこり笑う。
「これね、ピアの分なの。とうしゃま、お願い〜」
 差し出される袋。
 お前、この二人を目の前にして、そんなことを言ってのけるとは・・・・・
 私ですら、口にできないことを・・・・・・・
 ピアが差し出した袋を見つめる私の後ろに立つ二人がどんな顔をしているのか。
 振り向く勇気は、私には無かった。

                  おわり

      

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