自問

            by yukiさん

 こんなにも失うことが恐くなったのはいつからだろう。
 腕の中にぬくもりを感じていないと不安になったのはいつからだろう。

 ユーリを腕に抱きその寝顔を見つめると、ふとそんなことが浮かんでくる。
 安心しきった穏やかな寝顔。
 ゆったりとした規則的な吐息。
「ユーリ」
 返ってくるのは安らかな寝息。
 額にかかる柔らかな黒髪を梳き上げ口づける。
 抱きしめる腕に力を込めるとユーリの腕が巻きついてくる。
 そんな仕草に満足する自分がいる。

 まるで子供だ。
 不安な夜、母上の手を握り眠っていた子供の頃のようだ。

 鼻先にある髪に顔をうずめその香りを吸い込むと、優しい匂いがする。
「ユーリ」
 腕の中のカラダが軽く身じろぎをする。
「…ん、カイル?どうしたの?眠れないの?」
「いや。おまえの寝顔を見ていただけだよ」
「もう…。カイルったら」
 恥ずかしそうにわたしの胸に顔をうずめる。
 そんな仕草が愛しくて抱きしめる腕に力を込める。
「ユーリ、ユーリ。愛しているよ」
 耳元で囁く。
 おまえにだけ聞こえればそれでいい。
「カイル…」
 見つめる黒曜石の瞳に惹きつけられる。
 魅入られたように何も考えられなくなる。
 無意識のうちにその唇を塞ぐ。  
 この腕の中から逃がさぬよう閉じ込める。
「ちょっ…、カイル、苦しいよ」
「…………」
「カイル?」
 いぶかしむ声。
 これ以上どうやって伝えたらいいのだろうか。
 わたしの恐れていることを。
「ユーリ、愛しているよ」

 わたしはいつからこんなにも臆病になってしまったのだろう。
 愛すれば愛するほど恐くなる。
 たったひとりと分かっているからこそ失うことを恐れてしまう。
 
 なぜこんなにも愛しい。
 なぜこんなにも…。

                  END

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