マドさん、奥にて16000番げっとのリクエストは「ユーリに怒ったカイル」確かに、ユーリに怒ったカイルって見たことない・・とことん甘い人ですからねえ。


ぷりぷりウィンター



 歓声が聞こえた。甲高いはしゃぐ声。
 私はまじめくさって書簡を私の前に積み上げて説明しているイル・バーニの顔を盗み見る。
「・・・ユーリはなにをしているのかな?」
「遊んでおられるのでしょう。では、次の案件を」
 イルはあっさり言うと、外交文書を私の視界に差し出した。
「今日は雪が積もっているが・・」
「雪で遊んでおられるのでしょう」
 ・・・それはそうだが。
「わあ、かあさますごい!」
 なにがすごいんだ、デイル?
「春になれば使節がまいりますから」
 言いながら朝貢国のリストを並べるイルは目で確かに私を牽制している。
 ちょっと立ち上がって窓から顔を出すだけじゃないか、イル・バーニ!
「きゃああああ!!」
「かあさま〜」
 ああ見てみたい!
「陛下、聞いておられますか?」
「・・・聞いている」
 ユーリの笑い声が響いたとき、私はとうとうイルと書簡を片手で押しのけて立ち上がった。
 仕事に身が入らない。だから、集中するためにも、外を見るのが良いんだ。
「陛下!」
 私はすたすたと部屋を横切ると、裏庭に面した窓から顔を出した。
 外は、一面の銀世界だ。
 まぶしさに目をすがめた私の視界に、スロープを勢いをつけてすべり降りるユーリと子ども達の姿を認めた。
 分厚い布袋に乗ったユーリの姿がすごい速さで滑り落ち、吹き溜まりに飛び込む。
 雪まみれになりながら、ユーリが笑い転げる。
 デイルが遅れて転げ込み、悔しそうな顔をする。
「ユーリ!」
 窓枠を掴んだまま、叫んだ。
「あっ、カイル!!」
 見上げたユーリが手を振っている。
 思わず手を振り返した私は我にかえり、もう一度大声を張り上げた。
「風邪を引くぞ!」
「大丈夫!」
 な、わけがないだろう?
 私は雪の中から脚を突きだしてもがき始めたピアを見て、止めなくては、と思った。
 あいつのことだ、夢中になって遊んで、風邪を引いたりどこか怪我をしたりするかも知れない。子ども達だって、その危険はある。なにしろ手本になるはずの母親が怖いモノ知らずだときているんだから。
が、背後に冷気が迫っていた。
「陛下・・・」
「分かった・・・」
 ・・・仕事が山積みなのは分かっている。なにしろ、昨日まで休暇を取っていたのだ。
 久しぶりに家族水入らずで過ごして、鋭気も養った・・はずだが、朝から晩までユーリと一緒だったのに慣れてしまうとどうしても離れていると物足りなくなる。
 そう、心配よりなにより、一緒に遊びたかったりするのだな。
「・・風邪を引くのではないかと思ってな」
「遊んでいる間は大丈夫ですよ」
 それもそうだが。
 歓声があがる。
 ・・・楽しそうだ。
「・・・仕事に戻ろう」
 羨ましいぞ、デイル、ピア、マリエ。おまえ達はかあさまべったりだもんな。
 羨ましいぞ、ユーリ。皇妃の休暇の方が長いなんて。
「こちらは陛下がお留守の間に地方から寄せられた要望書です」
 ・・・羨ましい・・・。



 そして、ユーリは青ざめている。
「どうしよう、カイル?」
「なにがあった?」
 後宮に帰れば、もう一度仲間に入れてもらえるかと思っていたら、このお出迎えだ。
「・・・病気みたいなの」
 ユーリは私の袖を掴んだ。
「あたしがついていたのに!」
「子ども達か?」
 私だって青ざめるだろう。一日中雪の中で遊んでいたのだ。
 肺炎でも起こしたのか?
 ユーリは、涙を溜めながら何度もうなずいた。
 私は子ども部屋の扉を開いた。
 ふせっているはずの子ども達は、手と手を取り合ってひとかたまりになっていた。
「とうさま!?」
 悲壮な声でデイルが言った。
「とうさまなの?」
 ・・・これは?
「夕方になったら、急に・・」
 私にすがりつきながらユーリが言った。
「目が痛い、って・・それでだんだん見えなくなったの・・・」
 子ども達の不安な瞳が、さまよっている。
 ピアの被害が一番大きいようだ。ひっきりなしに涙を流している。
「医者には見せたのか?」
「お医者さまを呼ぼうと思ったら、ちょうどカイルが来て」
 私は、大きなため息をついた。なんというか・・脱力感。
 そういえば今日は天気が良かったな。
「カイル?」
 ユーリが涙を溜めたまま私を見上げる。
「おまえ・・雪目って、知ってるか?」
「・・?」
 私は子ども達のそばに移動した。
 三人一緒くたに抱きしめる。
「天気の良い日に雪の中にいると、反射で目をやられるんだ」
「それ・・治る?」
「ああ、治るとも。一晩眠れば」
 ほんとう?とうさま、と小さな声がくちぐちに言った。
「今日は遊びすぎたな、もう寝なさい」
 控えている侍女達に、眠っている間に、目元を冷やすように指示を与える。
 ユーリが、ほっと息を吐いた。
「・・・良かった・・」
 ・・・私は良くないぞ?
 私をのけ者にして楽しんでいるから、こういうことになるんだ。
 不機嫌が分かったのか、ユーリの瞳が私の顔をうかがう。
「・・・怒ってる?」
「ああ」
 だって、そうだろう?私はずうっとおまえ達の歓声を聞きながら仕事を片づけないといけなかったんだぞ?
 おまけに子どもに雪目を起こさせるなんて。
「・・・ごめんなさい」
 まだ涙ぐんだままの瞳が私の前で揺れている。
「・・・今回は一晩眠れば治るようなモノだから良かったが、おまえがついていながら・・」
 きついようだが、母親として知らないでは済まされないこともある。
 これは、のけ者が寂しかったせいだからではない。
「・・・あたし、母親失格だね・・」
 ・・・そうだ、ここできちんと言っておかないと。甘いだけでは許されないのだ。
 ユーリの瞳から、大粒の涙がぽとりと落ちた。



 で?
 結局、こんなことではいけないと思いつつ、私はユーリの黒髪に指をからめている。
「ホントにごめんなさい・・カイルはお仕事していたのにね」
 甘えた声で私の胸にすりよりながらユーリが言った。
「そうだな」
 まだ怒っている振りをするつもりが、声がかすれてしまう。
 子ども達はさっさと寝かしつけた。
 泣き出したユーリを抱き上げて・・・。
 ・・・そして、私は満足しきっている。
「ごめんなさい・・」
 謝罪していると言うよりは、ねだっているみたいだぞ、その声は?
「もう、怒ってないさ」
 困ったことに。
 もう一度ユーリの身体に腕を巻き付けながら、私はささやいている。
 甘いだけでは、許されない。
 分かってはいるんだがな。


                おわり    

     

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