愛情の問題?

                by仁俊さん


 私、イル・バーニが所用で後宮に向かっていると、リュイとシャラそっくりの子供2人に出くわした。
 私の顔を見つけると、作法通りに挨拶をして見せる。
「「おはようございます、イル・バーニ様」」

 女の子・・・という事は、リュイが産んだ双子か。
 皇女のマリエ様の遊び相手として後宮に来ているのだったな。
「おはよう。ニナッタ、クリッタ」
 頭を下げている間に無難に挨拶を返すと、急ぎの用があるのか2人はサッサと行ってしまった。

 一々考えないと答えが出てこないくらい、ここの家族は外見的にソックリだ。
 リュイとシャラが若作りをしているだけに、一層ややこしい。
 子供たちが幼い今はまだ良いが、成人すると母娘を見間違うかもしれないな。
 シャラの産んだギビルとギッラも男子にしては小柄で細身だから、骨格が成長して男っぽくなるまでは油断がならない。
・・・キックリの遺伝子は、一体どこへ行ってしまったのだろう?



「只今戻りました、陛下」
「ご苦労、イル・バーニ。ユーリと子供たちに変わりは無いか?」
「皆様、お変わりございません」

 陛下の執務中に時折、私がユーリ様とお子様たちのご様子を伺ってくる事になっている。
 そう言うと他の者に任せても良さそうな仕事だが、さにあらず。
「ユーリが裁決に困るような議案は無かったか?」
は良いとして、
「デイルの放った矢の的中率はどうだった?」
に始まって、
「シンが1番なついているのは、どの乳母だ?」
とか、
「マリエはお気に入りの人形に、今日はどんな衣装を着せていたのだ?」
といった事まで陛下はお訊きになる。
 さらには
「ピアが掘った落とし穴は庭園のどことどことどこの位置にあるんだ?」
のようなマニアックな御下問にも答えられなければ、陛下は
「もう良い。私が自分で見に行く!」
と仰って席をお立ちになってしまう。

 一旦後宮に入られた陛下は終日お戻りにならない可能性が高い。
 そうなると宮廷の執務は滞り、残った仕事は私の方に回ってくる。
 そうさせない為には私が見廻りに行くしか無いのだ。

 息子のダ・アーがもう少し成長したら、この仕事を手伝わせようと思っている。



「イル・バーニ様、ちょっとご相談が・・・」
 本日の執務も何とか無事にやり終え、ひと息ついているところへキックリが寄って来た。
 陛下は既に後宮へ一目散に向かわれた後だ。
「私に相談?」
「はい、実は・・・」
 ちょっとイヤな予感がしたのだが、キックリがあまりに真剣な表情だったので、ついつい相談に乗ってしまった。

「双子たちの区別が出来なくて愛情が疑われている、だと?」
「そうなんです。しかも最近、子供たちが反抗期に入ったらしくて」

 反抗期、子供を持つ親ならば一度は通過しなければならない問題だ。
 子供が“自分は親から愛されていないのではないか”という不信感を払拭できるように導いてやれば解決は早いという話を聞いた事があるが・・・。

「見分ける方法など、私は知らんぞ。相談相手が違うのではないか?」
「でも、イル・バーニ様!」
 振り切って帰ろうとする私にしがみつくようにして、キックリは訴える。
「“どの双子か”を見極めるのに苦慮している私に相談してどうするのだ?」
「見分けられる人たち全員に相談してもダメでした。今まで面白がっていたリュイとシャラまで私の愛情を疑いだす始末で・・・あとはイル・バーニ様の頭脳におすがりする他、無いんです!」



(私は何故、ここにいるのだろう?)
 断りきれずにキックリの家に来てしまったものの、そんなに急に妙案が出る訳でもない。
 目の前では、ここ数日繰り返されているらしい言い合いが続いている。

「だから言っているだろう、愛情はある!」
 懸命に愛情を訴えるキックリ。
「「そんな事言ったって、変よ」」
 反論するニナッタとクリッタ。
「「そうだよ、愛情があれば見分けられるはずだ!」」
 加勢に入るギビルにギッラ。
「「キックリは私たちのことを愛していないんでしょ!」」
 そしてリュイとシャラ・・・こんな時にまでユニゾンをする必要は無いと思うぞ?

 それはともかく、一体どうしたものか。
「愛しているさ。愛していても見分けられないものはあるんだよ!!!」
 キックリの悲痛な叫び。
 あんなに目を見開いて・・・は、いないか。
 何とかしてやりたいが、いくら愛していると声高に叫んだところで・・・ん、まてよ?
「ちょっと席を外せ、キックリ」
「え?」
「いいから、私に任せておけ」
 不信がるキックリを部屋の外に追い出して、私は他の6人を呼び集めた。



「本当にありがとうございました、イル・バーニ様!」
 私を家まで送りながら、キックリは繰り返し礼を口にした。
「これで、ようやく家で枕を高くして眠れます」
 そんなに感激して、涙を流されても困る。
「いやいや、大した事では無い」
 この言葉は謙遜でも何でも無いのだ。
「でも、どうやってあの子たちを説き伏せたんですか?」
 それは訊かないでくれ。
「・・・まあ、良いではないか。無事丸く収まったのだから」
「それは、そうですけど・・・」
 知らない方が幸せという事もある。

『愛していれば見分けられるはずだとお前たちは言うが、ではキックリが目を開けているか閉じているかをちゃんと見分けられる者が、この中にいるか?』

 私が言ったのは、まあ・・・そういう事だ。


             (ちゃんちゃん♪)

       

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