夫婦な時間


 私はドアを開けた。
「ただいま」
 中にはいると、ため息をつく。
「おかえりなさい」
 とろけそうな笑顔でユーリが出迎えてくれる。
「お疲れさま」
「ああ」
 カバンを渡すと、ネクタイをゆるめる。ピンク色のエプロンをつけたユーリは小首をかしげて私を見上げる。甘い声でたずねた。
「ねえあなた。ご飯にする?お風呂にする?」
 かっ、かわいい!! 
「そうだな、おまえが食べたい!!」
 言うと同時に、小さな身体をさらってそばの寝椅子に倒れ込む。すかさず背中に手を回して、エプロンを脱がせようとするが・・・なぜこんなにややこしくヒモが交差しているんだ?
「だめだよ、カイル!!」
 ユーリが抗議しながら、私の肩を押し戻した。拗ねたように口をとがらせている。
「ちゃんと真面目にやってくれなきゃ」
「ああすまん、つい、な」
 身を起こす前に、頬に口づける。私としたことが、理性を失ってしまった。
「じゃあ、最初からね」
 ユーリがカバン(木の板に持ち手を付けたものだ)を渡す。ネクタイ(首の回りに結ぶ細い帯。なんのためにこのようなものをユーリのいた時代の男は身につけているのだろう?)を締め直しながら、カバンを受け取った。
「ああ、じゃあ」
 部屋を出る。廊下に立っていた衛兵が眼を見開いたが、鋭く一瞥して閉じたドアに向き直る。


 私はドアを開けた。
「ただいま」
 中にはいると、ため息をつく。
「おかえりなさい」
 とろけそうな笑顔でユーリが出迎えてくれる。
「お疲れさま」
「ああ」
 カバンを渡すと、ネクタイをゆるめる。ピンク色のエプロンをつけたユーリは小首をかしげて私を見上げる。甘い声でたずねた。
「ねえあなた。ご飯にする?お風呂にする?」
 かっ、かわいい!! 
「一緒に風呂に入って洗いっこしよう!!」
 今度は、細い身体を床に押し倒した。すかさず、エプロンのひもを解く。
 よし、いける!!
「だめだってば、カイル!!」
 ユーリが私の肩を押し戻した。上気した頬は、少し怒っている。
「真面目にしてって、言ったじゃない!」
「おまえがかわいすぎるのがいけないんだよ」
 身体を解放しながら、今度はおでこに口づける。おまえの前では、形無しだな。
「じゃあ、もう一回ね」
 ネクタイを締め直して、ユーリからカバンを受け取る。
「では・・」
「ちゃんとしてよね」
 部屋を出る。衛兵は、心底仰天しているようだったが、無視してドアに向かった。


 私はドアを開けた。
「ただいま」
 中にはいると、ため息をつく。
「おかえりなさい」
 とろけそうな笑顔でユーリが出迎えてくれる。
「お疲れさま」
「ああ」
 カバンを渡すと、ネクタイをゆるめる。ピンク色のエプロンをつけたユーリは小首をかしげて私を見上げる。甘い声でたずねた。
「ねえあなた。ご飯にする?お風呂にする?」
 かっ、かわいい!! 
 ごくりとつばを飲み込む。エプロンのフリルがふわふわ揺れて、とても似合っている。
「そうだな、メシにするか」
「じゃあ、暖めなおすから、待ってね」
 ユーリが背を向ける。背中にはエプロンのヒモがリボンのように結ばれている。
 ユーリは虚空に向かって扉のようなものを開くマネをし、そこになにかを入れる仕草をした。
「なんだ、それは?」
「電子レンジ」
 なんだそれは?よくは分からないが、ユーリが満足そうなので、よしとしよう。
「お仕事、たいへんだった?」
「ああ、今日もブチョーにしぼられたよ」
 ブチョーがどんなものかは知らないが、ため息をつく。打ち合わせ通りに椅子に腰を下ろす。ユーリがそばにやってくると、私の肩に手をおいた。
「部長さん、あなたに期待しているのよ」
 ね、と私の顔をのぞき込む。黒い瞳が、間近で輝く。
 かわいい。
「私も、あなたなら出来ると思ってる」
 あごを上げていると、下唇が無防備に開かれてとても柔らかそうだ。
「だから、元気出してね」
 ふわっと、花のような笑顔を浮かべる。
 だめだ、我慢できない。
「私は、こんなに元気だっ!!」
 言うと、ユーリの身体を抱き上げる。そのまま寝台まで3歩で進み、なだれこむ。
「カ、カイルっ!!」
 言われるより先に、エプロンは宙を舞っていた。だんだんスピード・アップしているな。
 もはや、エプロンは敵ではない。
 短い裾をたくし上げると、ユーリの腕が押し返そうとする。
「今晩は『夫婦らしいこと』しようって決めたじゃない!!」
 あごを捕らえて、唇でふさぐ。たっぷり時間をかけると、抵抗はおさまった。
「・・・おまえの国では、夫婦はこんなコトはしないのか?」
「・・・する・・けど・・」
「なら、問題はない」
 にっこり笑うと、柔らかい肌に指を走らせた。


                       


 甘えるようにすり寄ってくる身体を抱き寄せる。腰に腕をまわして、密着させる。
「・・・楽しかったか?」
「え?」
「『夫婦らしいこと』」
 恥ずかしいのだろう、私の胸に顔を埋める。くぐもった声が、小さくつぶやいた。
「あたしのこと、子供っぽいと思ったでしょう?」
 拗ねた口調が、また愛しい。指を肩で遊ばせながらささやく。
「おまえのこと、どう思っているかもっと教えてやろうか?」
 



「で、陛下は部屋を二度出てこられたと?」
「は、はい。二度とも全く同じように。不思議な布を首にまいて、木の道具を持って」
 衛兵は平伏し、キックリは眉をひそめた。
「何ごとでしょう、イル・バーニさま?」
 急な報告を受けてたたき起こされたはずのイル・バーニは、一部もスキもない身支度で腕を組んだ。
「陛下はなにかまじないごとでもされておられるのか・・・」
 気持ち悪そうに、一行は閉じられた寝室のドアを見た。



                 終わり  

      

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