夜這いの波紋
byマリリンさん
夜這いは成功した。
が、朝になってから見た部屋の惨状はなかなかのものだった。
ワインの壺を割ってしまったため、ワインのにおいが充満していて、アルコールに弱いユーリは酔ったような顔をしていた。これはこれでなかなか色っぽいので、私は歓迎したいのだが・・・・
「ん、カイル?いつ来たの?」
ユーリが目覚めたようだ。思わず抱き寄せると、「っつ」と小さな悲鳴があがった。
「何でこんなところが痛いんだろう。」
ユーリが眺めている場所には私が昨夜踏んだ痕が残っていた。
思わず眼をそらす。だいたいお前は寝相が悪すぎる。ああ、これは言い訳か。
今日も忙しい一日になりそうだ。名残惜しいが起きなくては。
「『皇帝陛下が皇妃陛下に夜這いをした。そして、皇妃に抵抗され部屋はめちゃくちゃ、怪我までなさった。』と言う噂が流れておりますが・・・・・」
イル・バーニが、じっと私の顔を見ながら言う。
私は思わず顎を押さえた。寝台の柱にぶつけた顎が疼く。
そう言えば、衛兵が外にいたのだった。
がらがらと物の落ちる音やらワイン壺の割れる音が聞こえたのだろう。
バナナ(たぶん)でひっくり返った音も、もしかしたら聞こえていたかも・・・・
そして、この顔。
なるほど、そういう取り方もあるのか。
ユーリが湯浴みをすれば、私が踏んだ痕もついている。
あれは私が足蹴にした痕というわけだ。
まさか、ユーリの寝相が悪くて寝台から落ちるほどだとは誰も思うまい。
落ちてもそのまま寝ているなんて、なおさら思うまい。
だから、私が暗闇でユーリを踏むこともないわけだ。
しかし、なぜそんな話になるのだ? 私はただユーリの隣で寝たかっただけなのに。
そして、数々の困難(?)を乗り越えてその望みを叶えただけではないか?
「陛下、何も夜這いなどなさらなくても・・・」
イル・バーニが言葉を続ける。
「イル・バーニ、私は夜這いなどしていない。非公式に皇妃の部屋を訪れただけだ。」
年取った真面目な侍従長の言葉を借りておこう。
「とにかく、おやめくださいませ。」
そんな・・・今日も遅くなりそうなのに・・・・・。冷たい寝台に一人で寝ろと言うのか。
そうだ、私の寝所に呼んでおこう。
夜もかなり深まったころ、私が寝所にたどりつくと当然ユーリはいた。
が、眠い眼をこすりあくびをかみ殺して椅子に座っている。
侍従長は年寄りの頑固さを顔に貼り付けたまま言った。
「お召しになった皇妃陛下が、皇帝陛下より先にお休みになるなどとんでもないこと」
ユーリの視線が痛い。夫婦喧嘩をさせたいのか?ため息をつく。
「遅くなったら一人で寝てくれる?」
腕の中でユーリが私の顔を見ながら言う。
「ね、お願い。」
腕が私の首にからみついてくる。
これは、おねだりだろうか?ユーリのおねだりには逆らえない私だが・・・・
しかし、こんなおねだりをする寵姫は今までいなかっただろうな。
「ああ、わかったよ。今日は悪かった」
そう言いながら私は決めた。
明日から、政務が終わろうが終わるまいが、ユーリが眠る時間には仕事をやめて寝所に戻るぞ。
そうすれば、ユーリのおねだりも聞くことになるし、私の望みも叶うというわけだ。
それから毎日、私は政務を途中で切り上げ,さっさと寝所へ戻った。
おかげで仕事が溜まり、悲鳴をあげたイル・バーニが侍従長をうまく言いくるめたようだ。
今日も私は眠るユーリの横に滑り込み、幸せな気分で眠りにつこうとしている。
たまに(そんなことは滅多にないが)ユーリが眼をあけると
「今までお仕事だったの?お疲れさま」
と言ってくれる。
そんなときは、疲れもいっぺんに吹き飛ぶというものだ。
侍従長よ、王宮のしきたりもよいが皇帝にうまく仕事をさせるようにすることもお前の役目だぞ。
幸せなため息をつきながら私は、眠りに落ちた。
おわり
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