I dream of Babylon.

                       byタマさん

「おまえはバビロンで死ぬ」
 友人と出かけたデパート。買い物ついでに立ち寄った占いでナキアは占い師にそう宣告された。
 同行した友人は不吉な占いを気に病み、『お願いだから気にしないで』と言い続けた。

――バビロン
 遥か昔に滅びた都。
 それまで名前しか知らなかった。
 歴史の教科書に少しだけ出てきた地名。
 わたしはバビロンで死ぬ。
 ナキアは不思議なくらいその言葉を受け入れていた。

 そう、わたしはバビロンで死ぬために生まれてきた。
 バグダッドの南。メソポタミアにあり、ネブカドネザル2世の頃には隆盛を極めた。
 壮麗なイシュタル門、バベルの塔、愛する妻に贈った空中庭園。

 わたしのバビロン。
 調べるほどに不思議と鮮明なビジョンが彼女の脳裏に描き出される。

 腕に抱くのは男の首。
 わたしは砂の上に立つ。
『ごらん、あれがわたしたちのバビロン。世界の都』
『崩れた廃墟。ここではもう誰もわたしたちを咎めたりはしない』


「お願いよ、ナキア。あんな占い気にしないで」
 友人は占い以後、バビロンの資料を探し続けるナキアに何度もそう言った。
「いいのよ。あの占いがなければわたし、バビロンなんて知らないままだったもの」
「でも、そんな不吉な…」
「心配かけてごめんなさい。そっちこそ気にしないで」
「バビロンなんて2000年以上も昔に滅びた町よ。あんな占いデタラメよ」
 そうかもしれない。
 デパートのインチキ占いかもしれない。
 だけど気づいたことがあった。
 わたしはバビロンで死にたかった。

 バビロンで死にたい。

「ナキア!あなたはバビロンなんて関係ないのよ!」
 心配してくれる友人が有難く、哀れになった。
「ごめんなさい。ありがとう…。だけどわたし、いつかバビロンへ行くわ」
「あの辺はいつも戦争があったりして危ないし」
 戦火に焼かれた町は砂に埋もれて幾百年幾千年その姿を隠し続けた。
 その砂の上でやっとわたしとおまえの物語が終わる。

「お願い!もうバビロンのこと調べるのやめて!」
「ごめんね、ユーリ…わたし、バビロンで死にたい。もうはっきりしてるの」
「ナキア…」
 友人のユーリは悲しそうな顔でナキアをじっと見つめていた。

 滅びたバビロン。
 わたしを待つバビロン。
 今はもう誰もいないバビロンへ。

 わたしを呼んで。
 遠いバビロン、いつか夢が終わるまで。

                     END

     

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