まつさん奥座敷にて17000番のキリ番ゲットのリクエストは「カイルVS氷室」どうオチをつけていいのか分からない話だ・・


もえもえウィンター


「んもぅ、ダメだったらぁ、カイル・・」
「どうしてだ?いいだろ?」
 吐息混じりの言葉がエコーする。
 水音が響く。
 ここは、ハットウサの王宮の湯殿の中だ。
 湯気の中、しきりに身体をくっつけていちゃついているのは、当然カイルとユーリ。
「ダメだったら、お風呂だよ?」
「そんなこと、気にするな」
 たっぷりと湯のはられた浴槽の中で、カイルはユーリを抱きしめながら、ごきげんだった。
 身動きするたびに、湯ノ花が溶かしこまれた水面がゆらゆらと揺れた。
「さあ・・」
「や・・・んっ・・・」
 いちゃついている二人はまったく気がついていなかったが、じつは異変が起ころうとしていた。
 浴槽の真ん中あたりに、小さな渦が現れる。
「もぅ・・カイルったらっ・・」
「素直じゃないな」
 ごぽごぽ、と音がする。
 が、夢中な二人は気がつかない。
「・・・ここじゃ、イヤ」
「どこなら・・・いいんだ?」
 すでに渦は大きく成長し、浴槽の底がちらちら見えるまでになっている。
「・・・ね?・・あっち行こう?」
「どっちだ?」
 ごぼごぼごぼ
 とうとう、渦は人が一人通れるくらいにまで成長していた。
「・・いじわる・・・・」
「心外だな・・・こんなに優しくしているのに」
 背中越しに抱きしめたユーリの耳元にカイルが唇を這わせた。
「・・あっ・・・」
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
 叫び声と共に、派手な水しぶきが上がった。
「きゃあああ!?」
 思わずカイルにユーリが抱きつき、二人の上に雨のように湯が降り注ぎ、もうもうとした湯気がおさまったとき湯船の中に一人の人物が立っているのが見えた。
「!!何者だ!」
 とっさにユーリを後ろにかばいながら、カイルはそばにあった剣を取り上げる。
 人物は、驚愕に見開かれた眼のまま天井を見上げていた。
 口は叫び声の形をしている。
「おまえは、いったい!?」
「氷室!!」   
 カイルの背中に隠れながら、ユーリが驚きの声をあげた。
「ヒムロだと!?」
 剣を抜き放ち一部の隙もない構えながら、全裸のカイルが聞きとがめた。
「あいつがヒムロなのか!?」
 カイルにしてみれば、「一度も拒まれたこともない」武勇伝(?)にいきなり終止符を打った名前だった上に、過去(未来?)とはいえ、最愛のユーリが一時的つき合っていた相手なのだから、忘れることは出来ない。
「どうしてヒムロがここに!?」
「いや、それはよく分からないんだけど・・・」
「オレは・・・トイレにいた・・・そうしたら・・・便器の中に吸い込まれて・・・」
 天井に視線をさまよわせたまま、答えるともなく氷室がつぶやいた。
「そうしたら・・便器の中・・・ここは便器の国か!?」
 状況をようやく把握して(間違っているが)、氷室はやっと注意を周囲に向けた。
 とりあえず、風呂らしきところで全裸で仁王立ちしている外国人風の男を見る。
「あなたは・・・便器の国の住人?」
「ユーリ、こいつは何を言っているのだ?」
 カイルが首をねじ曲げて、後ろに隠れているユーリにたずねた。
「・・・なんだか・・メルヘンチックなこと言ってるみたい・・カイル、言葉分からないの?」
「ああ、まったく分からない・・・そういえば、おまえと会ったときも最初は言葉が分からなかったな・・」
 ところかまわず思い出モードになってカイルはユーリに微笑みかけた。
 氷室は、充分驚いていたのだが、さらに驚いた。
 外国人男の後ろに、現在失踪中のはずのユーリの姿を発見したからだ。
「夕梨!?おまえどうしてここに!?」
 そして、氷室はピンときてしまった。
「まさか・・おまえ、やっぱりそうなんだな?」
「やっぱりって、なに??」
 身体を隠すためにカイルの背中にしがみつきながら、ユーリは訊ねる。
「・・・おまえは誘拐されて・・・売られたんだ・・便器の国の高級ソープに!!」
 氷室は大理石で飾られた内装をぐるりと見渡した。
「こんな・・店っ!!もう大丈夫だよ、夕梨!一緒に帰ろう!」
「な、何を言っているの!?」
 ざばざばと湯を蹴立てて近づいてくる氷室を見て、ユーリはますます身体を小さくした。
「おまえがこんな店で働いていたなんて、誰にも言わないよ!もうこれからは『こんにちわぁ!ヒトミで〜す、よろしくぅ!お兄さん、学生さん?初めて?ヒトミ、サービスするね!』なんて嫌な男に言わなくてもいいんだよ」
「ヒトミって誰よ!?」
 カイルの剣が、正義感に燃えた氷室を阻んだ。
「それ以上、私のユーリに近づくな!」
「夕梨、こいつなにを言っているんだ!?」
 白濁した湯にあわてて肩まで浸かって身体を隠しながら、ユーリは首を振った。
「なんだかわからないけれど、すごい誤解しているみたい・・乱暴にしないで、カイル!」
「どけ!客はひっこんでろ!」
「ユーリ、通訳しろ!」
 いまや悪者の魔手から姫君を救おうとする正義の味方氷室は突きつけられた剣にひるむことはなかった。素手でカイルの剣を払う。
 ユーリの願いから、カイルはしぶしぶ剣を手放した。
 氷室とカイルはもみ合い始めた。
 おろおろしながらも一見優雅に湯に浸かっているユーリは必死で頭を働かせた。
「・・・とりあえず、言葉が通じるようになれば・・・」
「夕梨、こいつ、もしかして客じゃなくて用心棒なのか!?おまえ、用心棒にも言いがかりをつけられて手を出されていたんじゃ?」
「ユーリ、どうしたら言葉が通じる!?」
 若い男にしがみつくという不本意な体勢で、全裸のカイルは叫んだ。
 ユーリは自分が言葉が通じるようになったきっかけを思いだした。
 気に染まないが、仕方がない。
「・・カイル、氷室とキスして!!」
 返事の間もなく、カイルは氷室のあごを掴むと、口づけた。
「むぐぐぐぐ!!」
 体格差があるために、氷室はたやすくカイルに唇を許すことになってしまった。
「・・な、なにをするんだ!?」
 必死になってカイルの裸の胸を押し戻しながら、氷室は初めて男と接触を持ってしまったことに動揺していた。
「・・・だめだ、ユーリ!理解できないぞ!?」
 カイルは、今度は悪者の魔手に自らが陥ることになりそうで必死に抵抗する氷室を抱きしめながら、ユーリに訊ねる。
 ユーリは、眉根を寄せた。
 自分の時には上手くいったのに・・・なにが違うのだろうかと考える。
「・・・そうか!カイル、舌を入れるのよ!思いっきりディープにっ!!」
 氷室は、ユーリの言葉は理解できた。
 が、意味までは理解出来なかった。
 まだ動揺していたので。
 カイルの腕に力が込められる。
 氷室はなすすべもなく・・・またしても唇を重ね合わせられた。
「・・・ぐ・・・・」
 不幸なことに、今度は、もっと凄かった。
 なにしろ、かっては「千人切りのカイル」と称された男の魔手に落ちたのだ。
 じたばたとした手の動きが、虚しく宙を掻き断末魔のように痙攣し、ぱたりと落ちた。
「・・・ね?凄いでしょ?」
 複雑な表情で、絡み合う二人を見上げながらユーリが言った。
 カイルが氷室をようやく解放したとき、氷室の身体は力を失った。
 ずるずると崩れると、湯の中に沈み込む。
 ユーリが寄せる波を避けるように湯から上がった。
「ひ・・氷室?」
 ぶくぶくと、泡が浮かび上がる。
「おい?大丈夫か!?」
 カイルが湯の中に腕を差し込んで氷室の身体を引き上げようとした。
 しかし、腕はむなしく湯をかき回すだけだった。
 氷室は・・・姿を消した。
「・・・消えた・・」
 ばしゃばしゃとユーリが近づく。
「・・・還ったの?」
「かもしれん」
 カイルは複雑な顔でユーリを見上げた。
「あいつは・・おまえを連れ戻そうとしていたんだな?」
「そうなんだけど・・著しい誤解があったみたいなの」
 高級ソープとか、便器の国とか・・ヒトミって誰だろう。
 ユーリは湯冷めしかけた身体を、湯の中に再び沈めた。
 片手で立ち上がったままのカイルを引っぱる。
「カイル、風邪ひいちゃうよ?」
「ああ」
 うなずいたカイルは、こんどこそしっかりとユーリを抱きしめ直した。
「カイル・・・氷室と・・本気じゃなかった?」
 まわされた腕を指でなぞりながら、ユーリは唇を尖らせる。
「私がおまえ以外に本気になるはずがないだろう?」
「分かんないよ・・?だって氷室さ・・すごく・・・」
 ユーリの唇にそっと指があてられる。
「私の本気がどんなものか・・教えてやろうか?」
 懲りない二人は、またしてもいちゃつきはじめた。



「聡、あんたなにやってるの?」
 トイレ前の廊下で、目を回している弟を見て、姉が不思議そうに声をかけた。
「・・・あ?」
 上気した頬のまま氷室はゆっくりとまぶたを開いた。
 自分の、家だ。
「こんなところで寝っころがらないでよね、邪魔だし!」
「姉ちゃん・・・」 
 氷室はうつろな表情でつぶやいた。
「オレ・・便器の国に行った・・」
「はあ?」
 姉は気持ち悪そうに、びしょ濡れの弟を見下ろした。
 氷室はそっと自分の唇を指の節でなぞった。
「・・・あいつ・・・すごかった」
「な、なに言ってるの!?ちょっと、あんた熱あるんじゃないのっ!?」
 氷室の額に手を当てると、慌てて姉は両親を呼びに背を向けた。
 氷室は廊下に寝転がったまま、うっとりと目を閉じた。
「オレ、精進しないとな・・」


                             ごめんなさい。

     

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送