ZERO

             byタマさん

「ここはどこなんだろう」

 一面見渡す限りの砂漠でヒッタイト帝国皇太子デイル・ムワタリはのんきに従者の双子に言った。
「砂漠だと思います…」
 双子は蒼白になっている。
「それは見れば解る。解るよぼくにも。なんでぼくたちここにいるんだ」
「方向を間違っていたのではないでしょうか…」
 それ以外に考えられないこの状況。
 炎天下、太陽は真上でさんさんと輝いている。
「暑いなあ…どうしよう」
「引き返しましょう」
「どっちへ?」
「もちろん東です」
「どっち?」
「…………………」
 完全に方向を失っている。
「デイルさま、迷子になった時はその場で動かないのが良策です」
「水、残り少ないんだろ?ここにいたら死ぬぞ」
「あー!なんでもっと早く気づかなかったんでしょうか!?」
「迷子とはこういうものさ」
「殿下、変なところで悟らないでくださいいい!」
「落ち着けよ、騒ぐとのどが渇くぞ」
「そう言えば…」
「飲むな!」

 イマイチ緊張感なく揉めているうちに少し日が傾いた。
 よし、東は向こうかな…と馬を進めようとすると西側に人影が。
「どうしました?」
 上品で物腰優雅な20代ぐらいの男性だ。
 天の助け!と思った三人はこの青年に近寄った。よく見るとヒッタイト人らしい。
 そして顔を見て三人は驚いた。
――父上に似てる!
――皇帝陛下に似てる!
「迷ってしまったのです」
 にっこりとデイルが言った。だが瞳には『死して逃がすまじ』の気迫が篭っている。
「向こうは砂漠の中心に入る。こっちの方がいいですよ」
 案の定青年は親切に方角を教えてくれた。
「ありがとうございます…あの、ここで何を?」
「わたしも通りすがりです。少し送りましょう」
 こんな砂漠に通りすがり?
 腑には落ちないが付いていくしかない。
 優しそうな青年は三人を先導してくれた。
 その後姿を見ながら…。
「父上にそっくりだ…ずっと若いけど」
「ええ、びっくりしました」
「うちの血縁かな?」
「殿下の血縁はヒッタイトの皇族です。砂漠にはいません」
「そうか…でも他人とは思えないなあ」
 黙って馬を進める青年に聞こえないようにひそひそと囁きあう。
「父上の隠し子か?」
「まさかあんな大きな隠し子はいないでしょう!?」
「じゃあ隠し弟!」
「それを隠す意味は?」
「意味は…ないけど隠したかった!」
 不毛な議論が続いているうちに、やっと町が見えてきた。
 もう日が暮れてきている。砂漠に夕日が沈む。
「町だ!!」
 三人はそれぞれ喜びの声を上げた。
「ありがとうございました!助かりました!!」
「いいえ、それじゃわたしはここまでですから」
 そう優しく笑うと青年は砂漠に引き返す。
 え?夜の砂漠に?町に来たのではなかった?
 呆然と見送る三人。しばらくして青年の後姿は砂漠の闇に消えた。

 町には皇太子殿下行方不明に捜索が出ており、戻って来た皇太子は即座に確保された。
 双子ともどもこってり絞られるハメになったのは言うまでもない。
 後日ハットゥサで砂漠で出会った親切な青年の話をしたところ、皇帝は少し遠い目をした。

 たった半日の邂逅。
 幻か夢のように助けてくれた優しい青年。
 交わした言葉は少なかったけれどデイルはこの出来事を一生忘れることはなかった。

                   END

     

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