遅い朝
今日は朝から、身体が重い。
おまけに外は明るくて、どっちかというとお昼に近いんじゃないかな。
あたしは身体を起こそうとして、思わず唸った。
腰に力が入らない。
「はあ・・」
ため息をついて、枕に突っ伏す。
昨夜はイヴで、あたしとカイルは子ども部屋にこっそり忍んでいって、子ども達にクリスマスプレゼントを置いた。
それはなかなか大ごとだった。
ピアなんて「サンタクロースに会うんだ」って、なかなか寝付かなかったんだから。
それで、ようやく肩の荷をおろしてほっとするとカイルが言った。
『私にもプレゼントをくれないか?』
それからあたしたちは寝所に戻って・・・いつもよりほんの少し・・かなり激しく愛を交わした。
途中からなにがなんだか分からなくなって、あたしはカイルの肩にしがみついていた。
夢の中でずっとカイルの声があたしの名前を呼んでいたような気がする。
言葉までが熱を持っているみたいだった。
で、朝(じゃなくて昼)起きれば、カイルはいない。
あたしはカイルがいつもいるはずの場所に腕を伸ばした。
布団が冷たい。
クリスマス休暇(と勝手に名付けた)で今日は仕事がないはずなのに。
昨日の今日なんだからもっと一緒にいてくれてもいいのに。
それとも、急な政務が入ったのかしら?
お休みの朝はいつも、ベッドの中で二人きりのけだるい時を過ごして楽しむ。
退屈した子ども達が駆け込んでくるまでは。
もしかして、あたしが眠っている間に子ども達が来たのだろうか?
「ユーリさま、お目覚めですか?」
扉の向こうでハディの声がした。
「あ、うん」
あたしは苦労しながら身体を少しだけ持ち上げた。
大丈夫、ゆっくり動けば・・。
やっぱりちょっと痛いかな?
「お身体をお拭きしましょう」
心得たもので、ハディはお湯を張った水盤や柔らかい布や今日身につける衣装を持ってこさせると他の女官をさがらせる。
「大丈夫ですか?」
「うん、多分」
三姉妹に手伝ってもらって、なんとか座り直すと、あたしは自分の身体を見下ろした。 これは・・かなり・・。
いくら三姉妹でも、やっぱりこれを見られるのは恥ずかしいな。
「・・・子ども達は?」
本当はカイルのこと訊きたかったんだけど。
「陛下とお庭で雪遊びをされています」
身体を拭いながら、ハディが平然と答える。
カイルのことさりげなく教えてくれるあたり、やっぱりハディにはかなわないな。
「あ、そう」
そっけなく言ったつもりが、頬が赤くなるのが分かった。
また昨日のカイルを思い出してしまったから。
なんていうのか、ちょっぴり大ごとだったのよ。
「なにか召し上がられますか?」
リュイが水差しかカップに水を注いでくれる。
受け取ると、そっと唇をつけた。
冷たい水が気持ちいい。
「子ども達・・とカイルはもう食べたの?」
「いえ、まだ」
ハディが微笑んだ。
「雪遊びに夢中で、忘れておられるようですわ」
なんか、楽しそう。
「ユーリさまも、参られませ」
「そうする」
あたしは、床に足をつけた
なんとか、立てる。でも雪遊びにはハンデかな?
「あら、これは?」
シーツに手を掛けようとしていたシャラが、声を上げた。
「なあに?」
振り向いたあたしの目に入ったのは、寝台の枕元にぶら下げられたカラフルなかたまりだった。
昨日の夜はこんなものなかったのに。
「これは・・靴下ですわね?」
子ども達用に靴下を編むのを手伝ってくれたハディが言った。
「そうだけど・・これは・・・」
靴下はぱんぱんにふくらんで、中から大きな包みが覗いていた。
「 陛下かしら?」
渡された包みを受け取ると、ずっしりと重かった。
あたしは吹き出した。
「ユーリさま?」
笑うあたしを見て、三姉妹が怪訝な顔をしている。
響くお腹を抱えながら、あたしは声を立てて笑った。
疲れて眠ってしまったあたしからそっと離れながら、カイルが息を殺して靴下をつり下げるのが見えるみたい。
眠りに落ちる瞬間、カイルはなんてささやいたっけ?
おやすみユーリ。
それから?
眠った子にはサンタがやって来る。
おわり
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