WARM

              by仁俊さん

「寝たふりは、もう良いぞ?ハディ」
 私をベッドに降ろす直前になって、イル・バーニ様は、そう仰いました。
「えっ!?・・・あ、あああっ!」
 ドスン、と音を立てて無様に落下する私。
(もう・・・やさしく降ろしてくれてもイイのに!)
 抗議の言葉はイルりゅんのUPに阻まれ、口にしたのは別の言葉。
「お、お気づきでしたか」
 バツの悪さを隠すように照れ笑いをしながら表情を窺うと、どうやらそれほど怒ってはいない・・・と言うより、チョット困ったような顔を彼はしていました。

「陛下も、な」
「へっ?」
「女と云えども意識の無い人間の身体は重いものだ。この私がお前を軽々と抱き上げたものだから、陛下も多分お気づきだろうな」

(じゃあ・・・それで“私の寝室を使っても良い”なんて仰ったということは、私たちの関係もバレバレだっちゅうことですかい?)
 あのお言葉はむしろ寝たふりをしていた私に対する冷やかしだった、と?

「そうらしいな」

 驚きで口の利けない私の考えを、まるで読み取ったかのような返事・・・あわわ、バレバレの原因は、きっと私だわ!

「まあ、そこが可愛いところでもあるが、な」
 思わず両手で顔を覆ってしまった私を優しく抱きしめ、ベッドに寝かしつける。
 嬉しいけど・・・これってヤバくないか?
 病気の皇妃様を皇帝陛下が看病しておられる隣室で臣下が女官と同衾だなんて。

「陛下は了承済みだ。余計なことは考えずに横になれ」
 起き上がろうとする肩を押さえ込まれて唇を塞がれる。
(ああユーリ様、そして陛下、ご無礼お許しを!)
 覚悟(?)を決めた私でしたが、何故か彼はそれ以上の事を仕掛けてきません。
 小さな子供にするように、ただ優しく髪を撫でるだけ・・・。
 拍子抜けしつつも、その仕草が妙に心地良く、ウトウトし始めた私のそばで、あのひとの呟く声が聞こえたような気がしました。
「子守唄は・・・必要なさそうだな」



 翌朝目が覚めたときには、すでに彼は身支度を終えていました。

(ああ、また寝顔を見られてしまった!)
 船の中で同衾して以来の失態です。
 慌てて跳ね起きた私を含み笑いしながら眺めているのは、わが想い人。
「お、おはようございます!」
「ああ、おはよう」
 いかにも寝起きな私と、すでに髪も衣服も整え終わっている彼。
・・・なんだか、負けた気がする。

「何だ?不機嫌なようだが」
「なんでもありません」
 顔を背けようとする私のあごを掴んで、しげしげと眺める彼。
「イヤですっ!そんな・・・」
 朝の洗顔前の顔を観察するなんて、ひどいわ!

「疲れはとれたようだな。元どおりの美人だ」
(えっ!?)
 手を振り払われたことを気にするでもなしに軽く微笑み、イル・バーニ様はそのまま部屋を出て行かれました。

(ひょっとして昨夜抱かなかったのは、私の身体を気遣ってくれたのかしら?)
 そう思うと心の中が、ちょっと暖かくなるような気がしました。
 いつも素っ気無いあの人が、そんなはずはないのですけど。
 それでも何故か自然と出てくる鼻歌を唄いながら急いで支度を整え、皇妃様のお部屋へ。

「ハディ、来てくれ!ユーリの熱が下がったようだ」
 陛下の嬉しそうなお声に、私の声も弾む。
「は、はい!」
 さあ、戦闘開始だ。
 いきますよ、ハディ女官長どの!


              おわり

      

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