お正月、来る
by正月屋マリリンさん
「もういくつ寝るとお正月」
なんかユーリが浮かれている。
やっとクリスマスが終わったと言うのに今度はいったいなんだ?
”おしょうがつ”とはいったいなんだ?
そっと、様子を伺ってみる。
「ねえ、カイル大晦日はつき合ってね。」
とにかく機嫌がいい。
”おおみそか”ってなんだ?
”つきあうって”いったい何をさせられるのだ。
次々疑問は湧くが、聞こうにも浮かれきっているユーリは、少しもじっとしていない。
「御用納めまではお仕事しなくちゃねえ」
とか言って仕事はしているが、
ああ、”ごようおさめ”とやらはなんとか解った。
ユーリは12月28日までしか仕事をしないそうだ。
28日が”ごようおさめ”とやらだから・・・・
どうもユーリの国では、12月28日まで仕事をしたらしばらく休みになるらしい・・
”かんこうちょう”とやらいうところが。
で王宮は”かんこうちょう”だと言うのだ。
それと、”ごようはじめ”とかいうのがあってこれは1月4日だそうだ。
で、この日から仕事を始めると言うのだ。
ということは、皇妃の執務は12月29日から1月3日まで休みということになる。
そんなに、休まれたら帝国の機能に支障をきたしそうでイル・バーニが渋い顔をするだろうがあの様子のユーリを見ていると、到底仕事に身が入るとは思えない。
政務から遠ざけておいた方がいらぬ混乱を招かずに済みそうだ。
仕方がない。皇妃の分も私が仕事をするしかないだろう。
めでたく、”ごようおさめ”とやらを迎えたユーリは、夕方
「さあ今年のお仕事は終わり!」
と言うと後宮へ戻って行った。
イル・バーニを始め書記官は怪訝な顔で見送っている。
そりゃそうだろう。彼らは明日も仕事があるんだから。
明日からしばらく皇妃の分も私が仕事をする事を告げる。
「皇妃陛下には、なにかございましたか?」
「ああ、今日が御用納めだから」
「ごようおさめで・す・か?」
いったいなんだそれはと言う表情。
聞かないでくれ。私もよくわからないのだから。
「とにかく、明日からしばらく皇妃は仕事を休む」
「御意」
全員が頭を下げた。
二人分の政務をこなし、疲れた私がユーリの部屋を覗くと珍しく服や宝石をひろげ、あれこれ選んでいる。
そういった方面に無頓着なユーリをいつも嘆いている3姉妹は生き生きと手伝っている。
「ユーリ様こちらの方がお似合いになりますわ。」
「ん、でもね。帯があるものがいいの。」
「では、宝石はこちらを。」
「金の首飾りのがいいなあ。」
おおっ、珍しく自分の希望を言っているぞ。いつも、言われるものを渋々着ているのに。
私を見つけたユーリが
「あっ、カイル。どうこれ似合う。」
と、とびっきりの笑顔を見せてくれる
「ああ、よく似合うよ。」
だって私が、お前に似合うものをせっせと贈っているんだぞ。
似合わないものなんかひとつもない。心の中でつぶやく。
「お正月はやっぱり晴着を着なくちゃね」
なんだかよくわからないが、いいことだ。
今、私は”おおみそか”とやらにつきあわされているがよくわからない。
いつもの夜といったいどこが違うんだ?
「本当はね、除夜の鐘を聞きながら年越しをするんだけれどここにはそんなものはなさそうだし。」
「"じょやのかね”とはいったいなんだ。」
「ん、お寺の鐘をならしてね。108つあるという煩悩を追い払うのよ。」
にっぽんと言う国は煩悩の多い国なんだな。一人感心する。しかし、”おてら”ってなんだ?
ワインや夜食を取りながら過ごす二人きりの夜に、何の不満もないが・・・・・・・・
「ねえ、カイル。もう1月1日になったかな?」
「ああ、多分な。」
それがなにか?
「じゃあ、」
と言うとユーリはいきなり居ずまいを正した。
「あけまして、おめでとうございます。旧年中はいろいろとお世話になりました。今年もよろしくお願いします。」
と言うと頭を下げる。
「・・・・・・・・・・・・」
なんのまじないだそれは?
「カイル、ほらカイルも言って」
「なにを・だ?」
「もう一度言うよ。同じことを言ってね。
あけまして、おめでとうございます。旧年中はいろいろとお世話になりました。
今年もよろしくお願いします。」
「あけまして、おめでとうございます。旧年中はいろいろとお世話になりました。今年もよろしくお願いします。」
で、このまじないはいったい何のために言うのだ?
「さあ、」
と立ち上がったユーリに、私は今から寝るものだと信じて疑わなかった。
待ってましたとばかり私はユーリを抱いて寝台に飛び込む。
唇を重ね夜着の合わせ目から手を入れようとすると、思いっきり抵抗された。
なぜだ?
「ちょっと!!やめてよカイル!」
私の唇が離れたとたんユーリが叫んだ。
「今から、初詣に行くんだから。」
”はつもうで”?全身から力が抜けそうだった。また、知らない言葉だ。
寝台から抜け出したユーリは、着替えはじめた。
「ユーリ?どこへ行くんだ?」
外は寒いぞ。
おまけに今は真夜中だ。
「神社!と言いたいんだけど、ここにはないから、神殿にしようかと思って。」
神殿だって?それもこんな真夜中?いきなり?皇妃が?
「ユーリ、それはダメだ。」
「なんで?寒いから?大丈夫だよ。たくさん着て行くから。」
いやそういうことではなく・・・・・
「こんな夜中に皇妃が神殿へ行くなど、なにかあったのかと大騒ぎになってしまう。」
「えーっ、こっそり行くから。ねっ。」
「ダメだ。」
ここで負けたら元老院をも巻き込む大騒ぎになってしまう。
ユーリがじっと私の顔を見つめる。私もユーリを見つめ返す。
とユーリの視線がつと下を向いた。
もっと何か言うかと思ったのに、ユーリはいきなり後ろを向くと、着替えはじめた。
「ユーリ?」
「わかったから。もう寝るわ。」
寝台に潜り込む。
「お休みなさい。」
頭から上掛けを被ってしまう。
「ユーリ」
私は、上掛けをめくろうとのばしかけた手を止めた。
上掛けが細かく震えている。押し殺そうとしている泣き声が微かに漏れている。
ため息をつきながら私は声をかけた。
「ユーリ」
泣き声がやんだ。
上掛けがずらされ、黒い瞳が覗く。その瞳は・・・・・・やっぱり濡れていなかった。
「その手はくわないよ。」
「うーん。ばれていたか。」
しょうがつというのは、油断できない行事のようだ。やれやれ
※※※※※※ ※※※※※
初めて”お正月”と言う行事を知ってから何年経っただろうか?
お正月の前後は、忙しい思いをするのだが・・・・それは苦にはならない。
なにしろ、お正月は家族水入らずで過ごす、大切な時間になっているのだから。
「陛下。今日はもう終わりになさいますか?」
「ああ、そうだな。」
ユーリは御用納めで仕事を終わらすが、私は大晦日までは仕事をする。
理由はいろいろあるが、一番の理由は大掃除だ。
こき使われるか、それとも邪魔にされるか、どちらにしろ ろくなことはない。
政務をしていたほうが、よっぽど楽だ。
後宮へ戻るとピアとデイルが走ってきた。
「とう様。」
「とうしゃま。」
「なんだ?その格好は?」
「あしたね。大掃除のお手伝いするの。」
とデイル。
「ピアもしゅるの。」
なるほど、大掃除用の格好なのか。
しかし、世界ひろしといえど掃除をする皇子なんて他にいないだろうな。
後宮を駆け回る皇子は、手伝いというよりは邪魔をしそうな気がするが・・・・
私は、デイルとピアと一緒にユーリの部屋へ向かった。
「もういくつ寝るとお正月」
ユーリの弾んだ声が聞こえてくる。
また、楽しいお正月が迎えられそうだ。
おわり
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