ぷりんさん奥にて18000番のキリ番ゲットのリクエストは「ジュダ、ザナンザに憧れる」です。彼は常に他の兄弟に憧れていたような気が・・・
瞬景
「もうすぐお着きになるそうですわ!」
弾んだ声でアレクサンドラが報告する。
「伝令が参りましたの」
歓待の宴の用意を申しつけようとして、ふと夫が黙りこんでいるのに気がつく。
「・・・どうされましたの?殿下?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていたから」
ジュダは無理矢理に笑顔を作ると立ち上がった。
「さあ、皇后陛下が自ら軍を率いて来られたのだから失礼のないようにしなくては」
ジュダが知事を務めているカルケミシュはいくつかの小国と国境を接している。
その小国の間でもめ事が起こった。
ヒッタイトの藩属国でもある小国の王達は、皇帝に対して調停を仰いできた。
親書を携えてきたのは、いまだに近衛長官の地位にある、皇后ユーリ・イシュタルだった。
「お姉さまにお会いするには久しぶり!」
アレキサンドラは弾んだ声で言うと、広間の飾りつけを確かめてくると言って部屋を出ていった。
ジュダはため息をついて、窓辺に寄った。
眼下には、交通の要衝、カルケミシュの街が広がっている。
主要な街道が通り、ひっきりなしに隊商が行き交う街は、喧噪に包まれている。
山の上の堅固な壁に囲まれた要塞のようなハットウサとは違う、華やかでどこか砕けた雰囲気がこの街にはあった。
帝国におけるこの街の重要性は知っている。
この街の知事職を与えられたという、皇帝の信頼の厚さも良く分かってはいる。
けれど。
皇后を溺愛する皇帝が、その皇后を手元から離さなければならないのは。
「ボクは・・お役に立てない」
思わず言葉が漏れた。
藩属国の王達に対して、ヒッタイトの威光を示すには役不足だということだった。
現皇帝の唯一の弟として、帝国内での地位は高いものだったけれど。
それでも、軍事のことについてはジュダ自身が力が無いことを認めている。
軍を率いて有事に備える。知事としての当然の資質が欠けている。
補佐をするための将軍を、皇帝はジュダに与えた。
そして、今回もまた。
片時も離したくはないはずの最愛の妃を送ってよこした。
「ボクにもう少し力があれば・・・」
『おまえには、他の力があるだろう?』
目を伏せると、不思議に懐かしい声が響いた。
「ザナンザ・・・兄さま・・?」
ジュダが突きだした剣はあっさりとかわされた。
勢いあまって、地面に転がる。悲鳴を上げたのは、侍女だろうか?
「大丈夫か?」
伏せたままの背中に声がかけられた。
暖かい手のひらが肩に当てられる。
「おい、ジュダ?」
ジュダは、泥だらけの顔を持ち上げた。
不覚にも涙がにじむ。
「・・・怪我をしたのか?」
はしばみ色の瞳が、心配そうにのぞき込む。
ジュダは頭を振った。
「ちがう・・」
「どこか、痛むのか?」
ザナンザが首をかしげる。いまのいままでジュダと剣のけいこをしていたすぐ上の兄も心配そうに見下ろしている。
「ジュダ、大丈夫?」
「大丈夫・・・」
言う端から涙がこぼれた。
「ジュダ?」
顔が汚れるのも構わずに、乱暴に腕で涙をぬぐった。
ジュダは嗚咽をこらえながらようやく答えた。
「だって、ぜんぜん勝てないんだもの」
「・・・なんだぁ・・」
マリが大げさにため息をつく。
「そんなの、仕方ないよ。ボクだってザナンザ兄さまやカイル兄さまには勝てないよ」
けれど、ザナンザやカイルは他の年長の兄弟に勝つのだ。
ジュダは唇を噛んだ。
「ボク・・・だめなんだ」
戦車をようやく操縦できるようになったのはつい最近のことだ。他の兄たちはもう少し早くから乗りこなしていたと聞く。
一番上の兄がいつも嬉しそうに言う。
『私の治世は安泰だな。カイルが近衛長官を務めてくれる。それに、どの弟も武芸に秀でている』
『もちろんです、兄上!』
兄のふせる寝台によじ登りながら、兄弟は声を合わせる。
病弱な第一皇子は、皇位を継ぐまでは生きられないのではないかと、後宮の女官達はささやきあっている。
それが耳にはいるからこそ、兄弟達は兄に言うのだ。だから、はやく元気になって。
母はあまり良い顔をしなかったけれど、ジュダは他の兄が好きだった。
珍しい書物を読み聞かせてくれる、一番上のサリ兄さま。
いつも穏やかに話を聞いてくれる、ロイス兄さま。
カイル兄さまは一番好き。戦車を駆ると風のようで、おまけになんでも知っている。ジュダを教えてくれる博士達もいつも褒めちぎる。
ザナンザ兄さまは、そんなカイル兄さまといつも一緒にいる。遠乗りでも、弓のけいこでも、カイル兄さまはいつもザナンザ兄さまに声をかける。
マリ兄さまは・・ときどきちょっと喧嘩もする。でもいつも気にかけていてくれる。
ジュダはため息をつく。
後宮内での、もう一つの噂。
病弱な皇太子が身まかったのち、皇位を継承するのは第3皇子だと。そして、第4皇子はそれを補佐するだろうと。
幸い、お二人とも武芸に秀でておられますもの。これで帝国も安泰ですわ。
「ジュダ、どうしたんだ?」
思いに沈んでいたジュダに、ザナンザの心配げな声がかけられた。
「ボクは・・お役に立てないんです」
ぽろりと言葉がもれた。
地面にこすりつけた頬が、じんじんと疼いた。
「ボクは・・武術がだめだから・・」
「何を言っているんだ」
ザナンザが、ジュダの頬に触れた。
「・・・確かに、おまえは少し武芸はダメかもしれないが・・・博士達が誉めていたぞ?おまえは頭の回転が速いって・・なんでももう法典をそらんじるそうじゃないか」
はしばみの瞳が微笑んだ。
「大したものだ・・・おまえはきっと兄上のお役に立てるよ」
不意に吹きつけた風が、思いにふけるジュダを引き戻した。
見下ろした大通りに、王宮からの衛兵が並び始めている。
『おまえには他の力があるだろう?』
でも、兄上。今欲しいのは、もっと別の力なんです。
至高の地位にある、皇帝を補佐するための力。
あなたが持っていたような力。
多くのものをジュダの母によって奪われてきた皇帝が、ただひとつ手元に残し慈しんでいる人を手放なさなくてもすむように。
「殿下、お支度を!」
侍従が告げる。
「皇后陛下の御一行が城壁の外へ!」
ジュダはゆっくりと振り向く。
はしゃいでいるのは、妻のアレクサンドラ。
離れる辛さを知ったから。
ザナンザ兄さま。
ボクはあなたの力が欲しい。
おわり
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