パン・クッキング

            by 正月屋マリリンさん


「うふふ、見て見てカイル。タロスに作ってもらっちゃった。」
 ユーリが取り出したのは、いかにもしっかりした鍋。
 タロスに作ってもらった鍋?
 タロスってあのハディの父親のタロスか?
 と言うことはこの鍋は・・・・・・しげしげと見る。
 なんと鉄でできているではないか。貴重な鉄で鍋を作るなどさすがヒッタイト帝国の皇妃
「うふふ、すごいでしょう。」
 ああ、まったくすごいよ。(いろんな意味で)
 私ですら鉄をこんなものに使うなんて考えつかなかった。
 タロスは驚いただろうな。こんなものを作るように言われて。
 きっとユーリに製鉄法を献上したことを後悔しただろうな。
 こんな高価な鍋は、見たことがない。
 いや、いくらお金を積んでも、ユーリでなければ作らせることは不可能だろう。
 ヒッタイト帝国の皇帝である私でもできまい。
 しつこいが、製鉄法を献上されたのはユーリであって、私ではないのだから。

「寒くなったらやっぱり鍋よね。」
 ユーリが嬉しそうに言う。
 鍋? この鍋をいったいどうするというのだ?
 怪訝な顔をする私を見て、ユーリが言った。
「カイル、鍋ってしたことないの?暖まるのに」
 鍋をする?鍋で暖まる? どうやって暖まるんだ?
 巨大な鍋に入っているユーリが頭に浮かぶ。いかんこれでは、ユーリが煮えてしまうではないか。
「白菜やらネギやら、そうそう肉や豆腐も欲しいわね。カニや魚もいいなあ。」
 ハクサイ? トウフ?それはいったいなんだ?
「カイル鍋を食べたことないのね。それじゃあわからないわね。」
 一人うなずくユーリ
 鍋を食べる? 鍋をどうやって食べるのだ?鉄の鍋は硬いぞ。
「ねえ、カイル今夜は鍋よ。」
「ああ、嬉しいよ」
 これ以外のどんな言葉も思い浮かばない。
 今夜はいったいどんなものがでてくるのやら・・・・・


 テーブルの上に昼間見せられた鍋が載っている。
 おそるおそる覗き込むが、特に変わったものは入っていそうもない。よかった。
 そっと胸をなで下ろす。
「さっ、カイル食べましょ。」
 嬉しげにユーリが言う。
 しかし、ユーリは自分では手をつけようとしない。なぜだ?
「どう、カイルおいしい?」
「ああ、とってもおいしいよ。」
 実はなんとも言えない味がしたのだが、ユーリが作ったのかも知れない以上それ以外の言葉は言えない。
「そう、良かった。きっとこれで疲れが取れるわよ。」
 疲れが取れるだって?まさか・・・・
 ユーリの腕の中にあった、とかげの干物やいたちのようなものや、のたくった野菜が思い出された。
「ユーリ,これはもしかして、あの時買ってきた・・・・」
「うん、あの時の材料でスープをとったのよ。」
 にこやかにユーリが答える。
 それを聞いたとたん、それ以上食べることができなくなった。
 口元を押さえ胃の中のものを逆流しないようにするのが精一杯だ。
「カイル?どうかした・・・」
「私は、疲れてなんかいない!。」
「え? でも」
「疲れていない証拠を見せてやろうか?」
 ユーリの耳元で囁く。
「えっ?ち・ちょっとカイル」
「今夜は一晩中寝かさないから覚悟するんだな。」

 有無を言わさず腕の中に抱き込むと私は寝室に向かった。
 いつもなら、
「お願い、もうやめて。」
と言われると我慢をしていたが、今日は絶対やめないぞ。
 固く心に誓った私だった。






            おまけ

「カイルお願い、もうやめて。」
「どうして?疲れたのか。」
 弱々しくユーリが頷く。
「ちょっと、待っておいで。」
 私はユーリが作った鍋を持ってきた。
「さっ、これをお食べ。疲れが取れるから。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「まさか、自分が食べられない物を、私に食べさせたりしないよな?」
 微笑みながら、ユーリの顔をのぞき込む。
 今日の私はちょっと(いや かなりか?)意地悪だ。


            おわり

       

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