ほかほかウィンター

                  by yukiさん


 ハットゥサの冬は寒い。
 しんしんと凍てつくようで、夜になると誰もが息をひそめる。
 
「ユーリ様、陛下が先にお休みになるようにと」
今夜も繰り返されたハディのセリフ。
「そっか…、今日も遅いんだね」
「はい。暖かくして体を冷やさないようにと、心配されていました」
 最近のカイルは夜遅くまで政務が終わらないことがけっこうある。
 あたしが床につく時間になってもカイルが部屋に来る兆しが無い時は、ハディがいつもカイルの様子を見てきてくれる。
「じゃあ、あたしはもう休むから、ハディ達も休んでくれるかな?」
「では。ユーリ様、あったかくしてお休みくださいね」
「うん。おやすみなさい」
 3姉妹もさがってあたしひとりになると、部屋の温度はますます低くなった気がする。
 あたしはひんやりとした寝台に足を入れる。
「寒…」
 あたりまえのことだけど、冬は寒いのだと実感する。
 カイルが隣にいる時はこんなにも寒さを実感することも無い。
 広い寝台を自分の体温で暖め、冷えたままなかなか温まらない指先と足先を抱えながらいつの間にか眠りに落ちていった…。

 

 夜も深まった頃、やっと寵妃のもとを訪れることを許される。
 帝国の辺境の貧しい村では病も流行り始め、連日のように陳情を述べる者が王宮を訪れる。
 裁可を下し、食料や薬を与えねばこの冬を越せない者も多いだろう。
「陛下、お疲れではないですか?」
 忠実な従者が心配気な表情を浮かべている。
「いや。大丈夫だ。
 わたしはこれで下がる。皆もご苦労だった」
 まだ執務室に残っているものに下がるように告げ、わたし自身は後宮に向かう。
 先に休むように伝えさせてどれほど経つだろうか。
 あれはすっかり夢の中だろう。
 衛兵に扉を開けさせ部屋の中へと踏み入れる。
 部屋の明かりが落とされてからの時間を感じさせるような冷気が足元からしのびよる。
 寝台へと歩み寄ると、ほの暗い月明かりの中枕を抱えて眠る姿が浮かび上がる。
「ユーリ、抱きつくのはわたしにだけでいいんだよ」
 ゆっくりとユーリの隣に横たわり、枕を抱く腕を外させ胸の中にしっかりとつかまえる。
「ん…、カイル」
 目は覚めていないのだろうけれど、ユーリがその体をすり寄せてくる。
 鼻腔をくすぐるやわらかな匂いと胸の中のあたたかさにやっと全身の力を抜くことができる。
 間に横たわる無粋な布をゆっくりと華奢なカラダから剥ぎ取り、その滑らかな肌を全身で堪能する。
 風邪をひかせぬよう毛布と上掛けをしっかりとかぶり、愛しいその身を抱きしめ眠りに落ちる…。



 ゆっくりと浮かび上がるように意識が覚醒していく。
 まだはっきりとしない頭ですぐ近くのぬくもりに体を預ける。
 あれ?
 目を開けるとあつい胸板がすぐそこにある。
 ゆっくりと頭をめぐらすと、そこにはゆったりと寝息をたてている見慣れた寝顔があった。
 昨夜はいつ政務が終わったんだろう? 

 え!?ちょっとまって!
 なんであたしハダカなの!?
 昨日はちゃんと夜着は着てたし、えと、その、カイルと愛し合った記憶も無いのに!

「ユーリ?…もう起きたのか」 
 思わずカイルの腕の中から飛び起きてしまったから起こしちゃったのかな。
「あ、と。その、おはよう」
「ん。おはよう」
「………」
「どうした?早くこちらにおいで。風邪をひいてしまうよ」
 ぐいとカイルの胸に抱きこまれる。
「あの、さ。なんであたし何も着てないのかな?」
「ああ。脱がした」
「へ?」
「だから、わたしが脱がしたんだよ」
 頭の中が真っ白になる。
 カイルが脱がしたってことは…、何も無いってことはないよね?
「でもあたし何も覚えてないよ?」
「そりゃ覚えてるわけ無いさ。そのままおまえを抱いて寝てしまったのだから」
「え?カイルが何もしないで?」
「心外だな。わたしだって獣じゃないんだよ。
 おまえを抱いて眠れれば十分な夜もある」
「だったら、なにも脱がすことは…」
「ユーリは知らないのか?」
 カイルの腕にぎゅっと抱きこまれる。
 胸から鼓動が聞こえてくる。

「こんなにもあたたかいのに」


「冬ってあったかいんだね」

「ん?」

「カイルがいたら寒くないよ」 

                 END

       

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