アナトリアの祝福

                  by久利生さん

 窓にかかったカーテンがフワリと春の風に揺れた。
 満天の星がその美しさを見てくれと言わんばかりに夜の天に輝いている。
 その天にあと数日でイシュタルが上る・・・・・・・。
 あたしはそっと胸元を見る。
 カイルがつけてくれた「アイシテル」の痕がまだ残っている。
 正直、皆が見てる中で・・・なんて。でも、嬉しかった。
 喜んでばかりいられないのもわかってる。イシュタルが昇る日ナキア皇太后があたしをこの帝国から飛ばそうとしている。
 あたしを抱きながらスヤスヤと子供の様に眠っているカイルにそっと話しかける。
「ねえ、カイル・・・あなたからもらった「祝福」がどんなにあたしを安心させてくれたか知ってるの?」
 サラサラの髪の毛をなでそっと唇に触れる・・・。
 この寝顔を、吐息を知っているのはあたしだけ。
 カイルの瞼がかすかに動いた。
「ん・・・ユー・・・リ?」
 カイルが目を覚ましてしまった。
「ご・・・ごめんなさい。起こしちゃって・・・」
 あたしはそう言ったけどカイルはフフと笑いながら
「いや、いいさ。こんな起こし方なら大歓迎だよ。一気に眠気も飛ぶさ」
と言った。でもすぐに顔を曇らせて
「それよりユーリ・・・眠れないのか?皇太后の事が不安か?」
 カイルが心配そうに言う。
「・・・・・・不安じゃないって言ったら嘘になるよ。けど・・・」
「けど?」
「カイルが・・・・その・・・今日沐浴で祝福してくれたでしょ?」
 そう言ったあたしの顔は多分真っ赤だったと思う。
 なのにカイルはいたずらっぽく笑って
「ああ、そうだったな。本当はもっと先まで祝福してやりたかったんだがな・・・。
あれ以上のお前を他の男に見せるのは許せないからな。
ん?そこから先をしてほしいのか?」
「んもうっ!カイルったら。そうじゃないの!
・・・もちろん、その・・・嫌じゃないけど・・・。嬉か・・ったのカイルがあたしに勇気をくれたのよ、あのとき。だから・・・それを思い出してキスを・・・」
 カイルはじっとあたしを見ている。
「お前は・・・ここにいる。確かにいる。いくらでも祝福をしてやれるさ」
 そう言ってカイルはあたしの頬を両手ではさみ引き寄せ唇をふさいだ。
「ん・・・っ」
 息ができない。クラクラする。体中に電気が走ったよう・・・・。
 身体が熱くなる。何も、何も考えられなくなりそう。
 カイルの手が身体があたしを愛し始めるの・・・。あたしを愛してるって全身で吐息で伝えてくれる。
 あたしは、あなたのいるこの世界で生きていくと決めたの。
 その思いは誰にも邪魔させない。守り抜きたい。この人の腕のぬくもりを永遠に感じていたいの・・・。
「カイ・・・ル・・離さないで、は・・・っあ、抱きしめていて・・・ずっと、ずっと」
 言葉が吐息とともにこぼれてくる。
「わかっている。今までも、これからも、お前は永遠に私のものだ・・・・ユーリ・・・愛しているよ。愛している」
 春の風が吹く外では甘い甘い花の香りが漂っていた。
 それはまだ嵐の前の静けさ・・・・

              おわり

      

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