みるさん、奥にて19000番のキリ番ゲットのリクエストは「初夜までのカイル」。男の人って、どんな気持ちになるんでしょうね?




ENGAGE


 その視線は、いつもまっすぐに私を見つめる。
「うん、わかってるよ」
 腕を掴む指先に、力がこもりすぎていたかも知れない。
 けれど、ユーリは私の目を見て、はっきりと言った。
 この国に残って、私のものになるのか?
 一生、私のそばにいてくれるのか?
 ユーリの視線はまっすぐで、私は引き寄せられるように口づける。
 重なる唇の柔らかさや、からませた舌の熱さが夢ではないと告げる。
 この瞬間をどれだけ夢見たのだろう。


 たった一言、「残る」と口にしてくれれば、どんな望みもかなえようと思った。
 そばにいて欲しいと、懇願しようとさえ思った。
 けれど、それはユーリを追いつめることになる。
 夜毎、故郷を想い苦しむ姿を知っている。家族を思い、夢の中で何度も呼びかけたのを知っている。
 だから、引き留めることだけはすまいと、己を制した。
 ユーリを還すことだけが、私のとりうる唯一の愛情表現なのだから。
「あたしを日本に還して」 
 あの日も、ユーリは私をまっすぐに見て言った。
 前夜の、私の乱暴な振る舞いに顔を会わせるのも辛いほどの恐怖を味わっただろうに。
 だから私は誓った。
 なにがあっても、おまえを還そうと。


 兄上の待つハレブに着くまで、私たちはとりとめもない話をした。
 互いが離れての行軍中のこと。戦場での一時。戦車の上から見かけた、珍しい動物。
 二人が寄り添う戦車にはひっきりなしに舞い上がる砂塵が降りかかった。
 私は、マントでユーリを包んだ。
 胸に寄り添いながら、時々気遣わしげにユーリの指が包帯に触れる。
 そのたびに、私は細い肩にまわした腕に力を込めた。
 やっと、手に入れたという喜びが、怪我の痛みをどこかへ追いやってしまった。
「・・・陛下・・」
 言いながらユーリは顔を伏せる。
「揺れるの、痛くない?あんまり急ぐと傷に障るよ?」
「急いでハレブに着きたい」
 私はささやく。
 はやく、二人きりになりたい。
 確かめたいことがある。
 伏せた顔の前髪の生え際のあたりが、朱に染まる。
「・・・う・・ん」
 この身体を抱いて、私の想いのすべてを刻みつけたい。
 私のものになると決めた一生が、どれだけの濃密な時間を重ねるものなのか、そのことを教えたい。
けれど、ユーリは顔をあげない。
 あごを掴むと、上を向かせる。期待した黒い瞳は、伏せた睫毛に隠れてしまった。
「ユーリ・・?」
「・・ア・・アスラン」
 ユーリは突然早口で喋り始める。
「アスランがね、心配なの。替え馬もなしにずっと走っていたから!」
 私の腕から身をよじって抜け出すと、戦車の縁を掴んだ。
「キックリ、アスランは大丈夫だと思う?」
「アスランほどの軍馬でしたら、大丈夫ですよ」
 操縦綱を掴んだまま、振り向かずにキックリが言う。
 困惑しているようだ。当然だろう。
「あ、あたし、着きしだいアスランの所に行くから!獣医にも見せないと」
 ユーリの言葉に、しらずため息が漏れる。
 この幼さがユーリの魅力でもあるのだが。
「ほら、ユーリ」
 私はもう一度ユーリを抱きしめた。
 砂塵の彼方に、堅牢な城壁がそびえ立っているのが見える。
「ハレブだ」
 腕の中の身体が強張った。
「ア・アスランが」
「・・・見ておいで」
 身体を解放すると、これ見よがしに息を吐いてくれた。


 兄上が、城壁の外で出迎えてくれている。
 私が戦車から抱き下ろすのと同時に、ユーリは駆けだした。
「・・イシュタル様はどうされました?」
 兄上がいぶかしんで見送った。
「どうにも気になることがあるようで」
 苦笑する。
 戦車の中で、ユーリは一度も私の顔を見ようとはしなかった。
 あの、まっすぐな瞳をのぞき込みたい。
 私が切望していることなど、気がついてもいないのだろう。
「陛下、凱旋おめでとうございます。ささやかながら、祝賀の宴をもちたいと思っております。ご活躍されたイシュタル様にもご出席を」
「それはありがとうございます」
 では、ユーリを着飾らせる口実が出来たというものだ。
 兄上の前では、ユーリも突拍子もないことは言い出さないだろう。
 控えた三姉妹に合図する。
 ユーリはアスランの厩だろう。
「イシュタル様のご功績、ハレブまで響いておりました。陛下は素晴らしい方を妃にお持ちです」
 回廊を並んで歩きながら、兄上の言葉に思いをはせる。
 ユーリを今夜こそ、私の本当の妃にしよう。
 誰もが認める妃であるということを、なによりもユーリ自身に認めさせるのだ。
 あの、物怖じしない瞳が私を見返して、私に思いのすべてを告白させるように。
 互いの運命はもう二度と離れることはないのだと、理解させよう。
 
 髪も唇も肌も、目尻に浮かぶ涙も、切ない吐息も、なにもかもを手に入れよう。
 今夜。

 あの、まっすぐな瞳をのぞき込んで私は告げるだろう。
「愛してる」
と。


                   おわり

      

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