雪だるま

              by雪祭り屋マリリンさん

「ととまゆ、ゆきだるましゃんだよ。」
 その言葉と共になにやら、水の中に落ちてきた。
 ぼーっと見ていると、なにやら透き通ったような塊である。
 おまけに、池の底へつく前に崩れて粉々になってしまった。
 水が一段と冷たくなる。
 ゆきだるまとは水が冷たくなるものなのか。
 妙なところで納得する。
 もう、雪だるまは欲しくないな。
 水の冷たさに動きが鈍くなった身体を引きずるように、雪だるまから遠ざかった。


「とうしゃま、ゆきだるましゃんだよ」
 おや?ピア皇子は皇帝にも雪だるまをあげようとしているのか?。
 冷たい水にもめげず、おれは水面に浮かび上がった。
 なにか、おもしろいことが起きそうな予感がするではないか?
 なにしろ、ピア皇子がすることだ。
 皇帝の頭に雪だるまを載せているとか、雪だるまを投げつけているとか?

「とう様、雪だるま作ったんだよ。みてみて」
 デイル皇子の声もする。
「これを、二人だけで作ったのか? すごいな」
 たくさんの雪だるまの列が皇帝を迎えていた。
 いかにも誇らしげな皇子たち。その手も頬も雪の冷たさで真っ赤である。
「寒いだろう。デイル・ピア。早く暖まらないと」
 皇帝は皇子たちの頭をなでながら言っている。
「ハディ、部屋へ連れていって着替えさせてくれ。風邪をひかさないように頼む」

 おお、さすがに父親だ。
 しかし、せっかく浮かんできたのにおもしろいことはなにもなさそうだな。
 震えながら水底へ戻ろうとしたとき、デイル皇子の言葉が聞こえてきた。

「ハディ。とう様 『暖めてやろう』って言わなかったねえ」
「?????はい?」
「この前、かあ様が雪だるまを作っていたときは、『暖めてやろう』って言ってたのに」
 父親の後ろ姿を見送りながらデイル皇子が言っている。
 おれは、思わず向きを変えた。

「『暖めてやる』ってどうやってしゅるの?ねえ、にいしゃま。」
「さあ?僕もわからないよ。」
「かあしゃま、『いい、えんりょしゅる』ってにげてたよ。にいしゃま」
「こんど、とう様に聞いてみようか。ね、ピア」
「かあしゃまでもいいね。にいしゃま」
 二人が口々に言っている。
「ねっ、ハディは知ってる?」
「しってゆ?」
 いきなり、矛先がハディに向けられた。
 ああ、気の毒に・・・・・
 ハディは頭を抱えている。
 どうやら目眩がするらしい。
 皇帝夫妻が仲むつまじいのはよいことなのだが、もう少し時と場所を考えもらいたいよな。ハディ。
 なにしろ、好奇心旺盛な皇子たちの目が光っているのだから・・・・

 おや、向こうから誰かくるぞ。あっ、あれは・・・・おっ! デイル皇子も気がついたぞ。

「あっピア、ほら、かあ様だよ。」
「にいしゃま。」
 二人の皇子はうなずきあうと、母親に向かって走り始めた。
 皇妃はにこやかに微笑んで皇子たちを迎えようとしている。
 皇子たちの質問を聞いたら皇妃はどんな反応を見せるのだろうか。
 おれは、耳(あるのだろうか?)をそばだて、目を輝かせた。期待に胸が弾む。
 皇子たちが皇妃の前にたどりつくまで、あと僅かである。


            おわり 

       

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送