ぷりんさん奥座敷にて21000番のキリ番ゲットのリクエストは「カイル、ザナンザを想う」です。

ミッドナイト



 ザナンザが詫びている。
「兄上、お側を離れること、許して下さい」
 白い花が降り注ぐ。
「いつでも会える国どうしになるさ」
 私は、腕を差し伸べる。
 抱きしめた肩は、頼もしい。
 こうやって互いを体温をそばに感じたのはいつのことだっただろう。
 私は腕に力を込める。
 あの日も、こうやって抱き合ったな。

 身長ばかりが伸びて、腕も胸も薄っぺらだったお前が、知事になってカネシュに赴く日。
「兄上になにかあれば、私が真っ先に駆けつけます」
 頬を紅潮させてお前は言った。
 あの日お前の上に降り注いでいたのは、やはりこの花ではなかったか?
「同じ帝国内、いつでも会える」
 いつ他国に侵されるかも分からない国境の都市と、いつも命を狙われるだろうこの国の首都と。
 私たちは別れるしかなかった。
 まだ育ち切ってはいない身体が、たまらなく心細かった。
「だけど、本当は行かせたくない」
 ザナンザは微笑む。
「私こそ、兄上を残したくありません」
 いつのころからか、互いの夢を語り合った。
 どちらが欠けても実現不可能な夢を描いた。
「けれど、私は参ります。兄上のために」
 細い腕はやがては力をみなぎらせるだろう。
 重責に堪えて、帝国内に確固とした地位を築くのだと、柔らかな瞳は光をたたえた。
 だから私は腕を解いた。
 
 離れた場所で、私たちは思い描く未来に近づこうとした。
 日々を積み重ねて、そうしてこの日を迎える。
「行かせたくない」
 その言葉を口にすることはない。
 抱きしめた身体は、しなやかでしたたかな力を内包している。
 頼りのない少年は姿を消した。
 私たちは大人になった。
 あの人同じ花の降る中、私は同じ言葉を口にはしない。
「私は参ります。兄上のために」
 ザナンザもあの日と同じ言葉を飲み込んだのだろうか?
 ただ、まわす腕に力をこめる。

 どうして、引き留めなかったのだろう。

 行かせたくない、と。

「側にいる以上に役に立って見せます」
 お前は微笑む。
 いつだってお前は約束を守ったな。
 私の片腕になると誓った日からずっと。
 だから、私はお前を見送った。

「兄上、お側を離れること、許して下さい」
 永遠に会えなくなるとは、考えなかった。
 あの時のザナンザの腕は力強かった。
 私は笑みさえ浮かべた。  
「いつでも会える」



 ザナンザ、誓ったはずだろう?
 私は行くな、とは言わなかった。

 誓いを破るなどと、お前らしくもない。


「兄上、お側を離れること、許して下さい」

 私は許した。 
 お前が誓いを破るなどと考えもせずに。


 許して下さい・・・・だと?

 許せない。

                       おわり

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