恒温


 季節が代わり、サイボーグ・ザナンザが戻ってきた。
 皇帝一家は喜んで懐かしい姿を迎えた。
「よく戻ったな」
「どうだった、メンテナンスは?」
 年に一度の決まった行事とはいえ、やはり彼の姿が見えないと不安になるのは、悲しい別離の記憶のせいか。
「順調ですよ。ただハザードが暗くなっているので取り替えましたが」
 いったいどこにハザードランプが内蔵されているのかはまったく分からないが、サイボーグ・ザナンザは安心させるように微笑んだ。
「おじさま、ぼく馬に乗るようになったんです!」
「ピアも!」
 両親とは違って、二人の皇子は屈託がない。
 留守中にあったことを口々に教えようとする。
「それでは一度一緒に遠乗りに行きましょうか?」
 膝にしがみつく甥っこたちを見ながら、サイボーグ・ザナンザは目を細めた。
「マリエは?今日は大人しいですね?」
 皇妃の腕にぴたりとしがみついたままの幼い皇女を振り返る。
 ようやくよちよち歩きを始めたマリエ皇女は母親の服の裾に顔を埋めた。
「・・ごめんね、ザナンザ皇子。この子朝から機嫌が悪いの」
 皇妃は困ったように娘の頭を撫でた。
「さあ、マリエ、叔父様だよ?」
 皇帝が膝をゆるめてのぞき込もうとしたとき。
「くしゅん!」
 小さなくしゃみがした。
「ま?」
 慌てて皇妃は娘を抱き上げた。
「マリエ、風邪を引いたの?」
 額を合わせる。
「困ったわ・・熱があるのかしら?」
「大丈夫か?」
 風邪が大病になることもある時代だ、皇帝も心配そうに娘の頬に手を当てた。
「陛下、ご安心下さい」
 サイボーグ・ザナンザは言った。
「今回の定期点検で、私は新しい機能を付けてもらったのですよ」
 言うと、マリエ皇女に腕を差し伸べた。
「機能ってなに?」
「おじちゃま、バージョンアップしたんだね!」
 サイボーグ・ザナンザは皇女の耳にそっと手のひらを当てた。
「体温計です」
「体温計ですって!?」
 皇妃の顔が明るくなった。
 あれば便利だと、常日頃から思っていたものだからだ。
「体温計とはなんだ?」
「熱があるかどうか分かるモノよ」
 ぴっ、と音がする。
 サイボーグ・ザナンザは手のひらを自分の方へと向けた。
「何度なの?」
 期待と不安が混じったような顔で皇妃が訊ねる。
「99.5度です」
「え?」
 皇妃が固まった。
「それは、平熱なのか?」
 もどかしげに皇帝が訊ねる。
「99.5度って・・・沸騰寸前じゃ・・そんなはずないでしょう?」
「おかしいですね」
 サイボーグ・ザナンザは首をかしげた。
「私の手のひらにはそう表示が出てますが・・」
 ほら、と手のひらを返してみせる。
 そこには液晶で大きく、『99.5F』と数字が出ていた。
「Fって・・・華氏?」
 皇妃がつぶやいた。
「摂氏で何度になるのかしら・・・・」
「摂氏とはなんですか?」
「いったい、マリエは熱があるのか?」
 困惑する大人達の中で、二人の皇子だけが感心して歓声を上げていた。


                おわり 

  ちなみに。F(華氏)=1.8×C(摂氏)+32 だそうです。

     

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