うるうるウインター

               by西洋菓子贈呈行事日屋マリリンさん


 雪の積もった中庭に小さな影が一つ。あれはピア皇子? 
 何をしようとしているんだろう?
 見られているとも知らず、
「ととまゆ、ととしめ出ておいで」
 ピア皇子が寒さに震えながら呼んでいる。
「みて、バレンタインのおかしだよ」
 その手にはしっかりとお菓子が・・・・・。
「ととまゆたちの分だよ。」
 あれは、ユーリの作ったものだろうか?
 兄上の引きつった顔が目に浮かぶ。
 今日も、目を白黒させながら飲み込んでいるのだろうか。ユーリ手作りのお菓子を・・・・・
 正直に言えばいいのに、何も言わない。
 そのくせ、回りの者には愚痴をこぼす。まったく、迷惑なんだから。

 ピア皇子はお菓子を池の中に落とすと「じゃあね。」と言葉を残し自分の部屋へと走っていった。
 どうやら、誰にも内緒でこっそり来たらしい。
 足を滑らせて池に落ちたりしなくて本当によかった。
 とことこと雪の吹き溜まりを避けながら走っていくピア皇子を見送る。

 とと丸も心配そうにピア皇子を見送っていたが、私の気配を感じたらしく振り向いた。
「ね、とと丸。誰に似たんでしょうね、あの子は。池に一人で来てはいけないと言い聞かされているのに」
 そりゃ、母親だろうよ。 ザナンザ皇子も人が悪い。そんなのわかりきっているじゃないか。
「そう、とと丸の思っているとおりですね、きっと。今頃怒られているでしょう。見てきますか。」
 私を見つめるとと丸に笑いかけながら、ピア皇子の部屋に向かった。

「いい、ピア。こんな冬の寒い日に池に落ちたら大変なのよ。」
 ああ、やっぱり思ったとおり怒られている。
「おじちゃま・・・」
 私に気が付いたピア皇子は涙で一杯になった目で見つめてきた。
 しょうがない。
 私は覚悟を決めて言った。
「ユーリ、私が一緒だったんですよ。」
「ザナンザ皇子?」
「ピア、だめでしょう。私をおいて先に行ってしまうなんて。寒かったのはわかりますけれどね。」
「ザナンザ皇子、ピアを連れていったのならちゃんと最後まで見ていてもらわないと。」
「ええ、すみません。私の不注意です。これからは気をつけますね、ユーリ。」
「やめてっ、かあしゃま。」
 ピア皇子がいきなり泣きながら叫んだ。
「ピア?」
「おじちゃまは悪くないの。ピアは一人で行ったの。おじちゃまは、ピアをかばってくれたの。」
「ピア・・・・・・」
「もう、一人ではいきません。ごめんなしゃい。かあしゃま。」
 泣きながら謝ったピアは、振り向くと私にしがみついて言った。
「ごめんなしゃい、ごめんなしゃい、おじちゃま。」
「いいのですよ、ピア。私が自分から言い出したんですからね。これからピアが一人で池に近づかないでくれれば、それでいいんですよ。」
「うん。やくしょくしゅるよ。」


「これは、いったい何の騒ぎだ?」
 いきなり兄上の声がした。
「なんでもありませんよ、兄上。ピアが一人では池に行かないと約束してくれていただけです。ね、ピア。」
「ん、おじちゃま」
「そうなのか?」
 あまり信じていないような様子だったが、それ以上の追求はない。
「ところで兄上こそどうしたんですか?今は執務中のはずでは?」
「いや、ユーリが私に会いたがっていると聞いたから・・・」
 それで、仕事を放り出して来たわけですか?
 イル・バーニの苦虫をかみつぶしたような顔が浮かぶ。
 今日は、この後、皇帝が使い物にならなくなるだろうな・・・・イル・バーニに同情してしまう。
「いつものことだが、今日は特にイル・バーニが邪魔をするもので、抜け出すのに苦労したよ。」
 えっ?兄上、もしかして・・・
 ユーリが会いたがっているということが嬉しくて何の用事かなんて考えずにここまできたとか・・・・

「はい、カイル、バレンタインのお菓子。」
 ユーリがにっこり笑いながら大きな包みを渡す。
 去年より一回りは大きくなっているな、あれは。
「う・・・・・・・・・」
 兄上は、不意打ちを食らって、顔色を変えた。
「どうかしたの?カイル」
「う・嬉しいよユーリ。」
 引きつりながら、必死に言葉を絞り出す兄上の様子がおかしい。
「ほんと?良かった。今年も頑張ったのよ。」
 ”頑張らなくてもいい。”兄上のつぶやきが聞こえる気がした。

「ピア」
「おじちゃま」
 私たちは目配せすると、そっと部屋を出た。
「ね、ピア。とと丸にあげていたお菓子はどうしたんですか?」
「あれはね、ハディがつくってくれたの。」
 ユーリ手作りのお菓子ではなかったのか。
 とと丸たちは、大丈夫だな。そんなことを考えていた私に、ピアは声をひそめながら言った。
「あのね、おじちゃま。かあしゃまのおかしはとうしゃまだけのものなんだよ。」
「えっ?」
「とうしゃま、にいしゃまにもピアにもぜぇったいくれないの。」
 不満そうに頬を膨らませているピアと手をつないで歩きながら私はこっそり微笑んだ。
 ピア、その理由がわかることがないことを祈っていますよ。

 今年のバレンタイン・ディも平和(?)に過ぎようとしている。


                     おわり

     

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