そして彼女は



 初めてチョコレートをプレゼントした時?たしか幼稚園の時だった。
 相手は同じ白クマ組のコウジくん。
 足が速くて格好良くてなかなか人気のある男の子だったよ。
 チョコは「コウジくんにプレゼントする」ってママに買ってきてもらったような気がする。
 お返しにはキャンデーの箱をもらったような・・・。
 確か、コウジくんのママが持ってきてくれた。
 彼とはその後どうだった、ってこともないんだけど。子どもだったしね。
 次は小学校3年生の時の、やっぱり同じクラスのアキラくん。
 この時初めて手作りチョコを作ったんだよね。
 そう凝ったのでなくて、市販のチョコを溶かしてアルミホイルのカップに流したの。
 湯煎じゃなくてお鍋を直接火にかけたもんで、チョコがぐつぐつ煮詰まったけど、わりと上手く出来たんじゃないかと自分では思っているんだ。
 綺麗にラッピングして、彼の机に入れたの。
 直接渡そうと思ったんだけど、アキラくん、おたふく風邪でバレンタイン・デイはお休みだったのよ。
 あの時はおたふく風邪が流行っていてね、学級閉鎖になったのよ。
 ・・・違うな・・・学級閉鎖はインフルエンザのせい。そう、みんなインフルエンザで休んでいたんだけど、アキラくんだけがおたふく風邪だったんだよね・・。
 ああ、おたふく風邪もインフルエンザも病気の名前。あるのよ、そんなのが。
 お返し?
 ないよぉ!だって、アキラくん、すっごくモテたんだから!
 それから・・・うん、本命っていうのはいなかったよね。
 ずうっと義理チョコばっかり。
 そりゃ、ちょっとは気になる人、いたけどね。
 仲の良いメンバーと冗談で義理チョコをあげたりして・・・
 ・・・これはナイショだけど・・・ホントはね、照れくさいじゃない?
 気にはなってたんだけどね、氷室のこと。
 でも、普段から冗談ばっかりだから・・・そんな雰囲気じゃなくて。
 あたしはほら、こんなんだからぽんぽん好きなこと言いあってたけど、氷室って陰でこっそり想われてたみたい。
 モテたっていうの?
 バレンタイン・デイとかいっぱいもらってたなあ。
 手作りチョコもね。
 あたしは、義理だから。市販品で済ませるしかなかったの。
 ホントは手作りチョコ上げたかったな・・・あ、ナイショね?
 え?モテるタイプが好きなのかって?
 違うよぉ!そんなの全然!・・・でも考えてみたらそうかも知れない。
 カイルもモテるし。
 モテたのよ、以前は!すっごく遊んでたって!
 え?別に怒ってないけど。昔の話だしね・・・。
 うん、昔だから。あたしと出会う前。遊び方が半端じゃなかったらしいけどね。
 結構手当たり次第だったって聞くけどね。
 それでね、まあ、こんなことになっちゃって・・つまり結婚してね、ほら最初はごたごたしてたけど、落ち着いてくるとなんとなく、ね?
 やっぱり本命にはあげたいじゃない?
 でもチョコなんか手に入らないし・・・って思ってたんだけど。
 エジプトからの交易品の中にあったのよね。
 この実!これを煎って摺ればチョコになるんだって。
 売ってるチョコの箱に印刷してあったような・・・
 これはさ、やっぱり作らないとって思うでしょ?
 思わない?
 カイルはあんまり重要じゃないって考えてるみたいだけど、あたしとしてはやっぱり自分の気持ちを伝えたいって言うか・・・
 やっぱり好きだし・・照れるなぁ・・・
 手間はかかるけどね、その分想いが伝わるでしょう?
 え?この実?コーヒーって言うんだよね?
 でもコーヒーってチョコじゃないの?
 違うのかなあ?よく分からないよ。なんかそれっぽくない?
 似たようなものだと思うんだけど・・・まあ、手に入るものでなんとかしなくっちゃ。 いけてると思うんだけど。ほら、カイルもいつも美味しそうに食べてるじゃない?
 味見?へへへ、じつはしてないの。
 だってさ、この実をするのすごく力がいるんだもん。
 疲れちゃってね、味見どころじゃないの。
 苦い?そりゃあ、ね。
 でも蜂蜜をいっぱい入れたら甘いよ。本当はお砂糖がいいんだけど。
 お砂糖?甘くて白くてさらさらなの。分かんないよね。
 まあ、そういう食べ物があるんだよ。
 で、蜂蜜をいっぱい入れたら甘くなるから。・・・でも焦げやすくなるんだよね。
 焦げてる?そうかな?大丈夫でしょう。
 黒いのはチョコが入っているせいだよ、うん。
 コーヒーだっけ?どっちでもいいじゃない。
 見た目は悪いけど、愛情はたっぷりだから。
 だめだよ、チョコは貴重なんだから!
 これだけしかないの。つまみ食いはなしね。
 ふふふ、毎年作っているから、もう慣れっこ。
 カイルの好みは大体分かるよ。レシピも同じだしね。
 味見?しないってば。
 これしかないんだよ?大丈夫、ちゃんといつもと同じに出来てます!
 カイルはいつも美味しいって言ってくれるよ。
 自信あるの、これは!
 カイルったら、「皇帝以外に口にすることは許さない」なんて言うの。
 暴君でしょ?普段は名君なのにね。
 独り占めして、子ども達にもダメだって。
 困った人だよね・・・まあ、仕方ないけど。
 だって、ほら、あたしはカイルのたった一人の妃なんだし。
 やっぱり、特別かな、って思うのね。
 デイルがなにか言ってた?なんて?
 カイルが半端じゃなくあたしを想っているって?
 あの子ったら・・・!大人をからかうもんじゃないよ。
 まあ、あたしたちもちょっと子どもの前で見せつけすぎかな、とは思うんだけど。
 さあ、出来た!
 そんなに物欲しげな顔しないの!
 美味しそうでしょ?
 食べたい?・・・・冗談よ。
 なに脅えてるの?
 大丈夫、カイルはこんな冗談ぐらい目くじら立てないって。
 さて、カイルの所に行くわ。きっと待ちかねてる。
 じゃあね・・・あ、さっき話したこと、秘密よ?
 ほら、昔好きだった人のこととか・・・
 黙っててね。・・・こんどこっそり何か作ってあげる。
 ・・・いらないの?遠慮しなくてもいいのに。
 チョコレート・ケーキはさすがに無理だけど。
 あ、行かなきゃ。きっとカイルが待ちわびてる。
 じゃあ!


                    聞き手。双子の侍従見習い

     

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