真紀さんの奥座敷にて22222番ゲットのリクエストは「風邪で寝込んだ子ども達に嫉妬するカイル」。お父さん、構って欲しいんだ・・・
大迷惑
「さあ、ピア、あ〜〜ん!」
ボクはおもいっきり顔をしかめた。なんだってこんなハメになったんだろう?
「どうした、ピア?」
ボクの目の前でスプーンを差し出しているのは・・・父上だ。
どうして皇帝がこんな時間に仕事もせずにボクの寝所にいるかって?
決まってる、母上だ。
ボクがいやいや口を開くと、すかさずのどの奥までおかゆが流し込まれる。
・・・食欲ないのに・・・
「ようし、偉いぞピア!さあ、もう少し食べよう。しっかり食べないとよくならないからな!」
父上の思いやりのある言葉に、目頭が熱くなる。ああ、なんだか下心を感じてしまうのはボクがひねくれているからだろうか?
「・・デイルもしっかり食べているぞ」
兄上・・・今頃、母上の優しい看病をうけているんだろうな・・・
父上だって優しくないことはないのだ。スプーンを持つ手つきは慣れたものだし。
これは常日頃、母上を膝に乗せていろいろ世話を焼きながら食事をするためだと思われる。
しかし・・・もうすぐ自分の宮だって持とうという息子が父親と差し向かいで『あ〜ん』はどう考えたっておかしいぞ?
「さあ、ピア、もう一回あ〜んだ」
いやいや口を開きながら考える。
事の起こりは、ボクたち兄弟4人が風邪をひいたことによる。
最初にシンが熱を出して、次がマリエ、そうして、ボクと兄上。
母上はいつものように看病してくれた。
熱の高い夜は夜通し側にいて、おでこの布を換えてくれたり、汗を拭いてくれたり。
父上もマリエのあたりまでは本気で心配して下さったはずだ。
けれど、ボクが、その翌日には兄上が発熱するに至って・・・音を上げた。
母上が子ども部屋に入り浸ることに、だ。
最初父上は殊勝にも
「お前が疲れて倒れてしまうよ」
なんて見え見えの言葉をかけていたのだけれど母上があの黒い瞳をうるうるさせて
「子ども達についていたいの、いいでしょう、カイル?」
と、言われた日には・・・自分の寝所に帰ってこいとも言い出せず。
結局、なぜか父上がボクの看病をしている。
「このままではお前が病気になる」
「でも、カイル・・」
「女官に任せるのがいやなら、私がついていよう」
まあ、母上だって完全に女官の手を借りない、と言うわけにもいかない。
事実もう、回復期に入っているマリエやシンの付き添いは女官だし、その様子を見に行っている間の兄上の付き添いも女官だ。
だからって・・・どうしてボクの付き添いが父上なんだ?
「さあ、ピア!」
ううう。ボクはさらにお粥を食べさせられている。
父上、食欲がないんです。
ボクの表情を無視して、父上がまたしても大盛りにお粥をすくい取ろうとしたとき、扉が控えめに開けられた。
「・・・ピア?」
母上だ!不味いことに、父上よりボクの名前を呼んでいる。
父上があからさまに気に入らない、と顔をしかめる。
「具合はどう?」
母上はするりと部屋に入っていくる。白いドレスがふわふわ揺れて、女神のようだ。
・・・って父上は思ってるな。
「いまちょうど食事をさせていたところだよ、ユーリ」
父上はボクにかけるよりも百倍は優しい声で母上に言った。
けれど母上は父上のことよりはボクの事の方が気になるようだ。
さっさとそばをすり抜ける。
「デイルはどうだ?」
母上の興味をひこううとする父上の言葉に上の空で、母上はボクのそばに座った。
「うん、もう下がったみたい・・・ピアはどうかしら?」
言うと母上は、こつんとおでこをボクの額にくっつけた。
・・・ああ、なにも父上の目の前で・・・
「下がってるわね?ごはんも食べているようだし・・・」
「もう回復期だよ、そう心配することもないさ」
母上の腰に腕を巻き付けながら、父上が言った。・・・子どもの前なんですけど。
しかも、ボクは病人なんだけどな・・・
「それより、お前も疲れているんじゃないのか?」
言いながら、母上のおでこに自分のおでこをくっつける。
う〜〜ん、もしかして対抗しているのか?
言っておきますけど、あれは母上からやって来たんですからね!
「大丈夫だよ・・・それより、カイルも疲れてない?」
父上はとろけそうな目で母上を眺めている。
「いいや、かわいい子どもが病気なんだ、これくらいなんともないさ」
・・・・なんだろう?素直に言葉がとれないぞ?
「さあ、ユーリそろそろピアを眠らせてやろう」
・・・まだ食事途中なんだけどな・・・食欲ないからいいですけどね。
いちゃつくならヨソでやってください。
「う・・ん・・・ピア、なにか欲しいモノ、ない?」
「特にありません」
ああ、そっけなかったかな?ごめんなさい、母上!
「ほら、ピアもこう言ってることだ」
父上は嬉しそうに母上を抱き上げた。
「カイルは、お仕事あるんでしょ?」
母上が首をかしげる。
「大丈夫だよ」
・・・きっと大丈夫でないのはイル・バーニだな。
父上は食事時には必ずボクの部屋にいらっしゃったから。
「私たちも休んだ方がいいな。子ども達の風邪が移らないように」
「・・・そうね・・・」
ボクをダシにして後宮に入り浸っているくせに、そのボクをあっさり置いて行くとは。「ああ、ピア」
ぶつくさ言っているボクに気がついたのか、ドアまで行きかけた父上が振り返った。
「は、はい」
「薬はちゃんと飲むんだぞ?」
「はぁい・・」
いそいそと出ていった父上を見送ると、ボクは大きなため息をついて机の上の薬ビンに苦労して手を伸ばした。
なんかなあ・・・
もうこうなったら、寝てしまおう。
そうだ、明日調子が良くなったら、兄上の所にお邪魔して、母上の看病中に『兄上を見舞う』って名目で押し掛けた父上の様子を聞いてもいいな。
おおかた想像はつくけどね。
まったく、迷惑だよ。
ボクは上掛けを鼻の位置まで引っ張り上げた。
おわり
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