これからの始まり
by yukiさん
「わたしと結婚してほしい」
そう言った時おまえは心底不思議そうな顔をしていた。
出てきたセリフは
カイル…?何で今さら…?明日の結婚式ならちゃんと出るよ」
というものだった。
わたしは何も奇抜な行動を取ったわけではない。きちんと説明しなくてはならなかった。
「おまえがこの帝国で生きることを決めてくれてわたしたちは最良の皇妃を得られることになった。 帝国の誰もがおまえのタワナアンナとしての器量を認め、このまま明日の結婚式と戴冠式を迎えることに何の疑問も持っていない」
これはわたしも思っていることだ。
それなのにおまえは不安そうな顔をして聞いてきた。
「何か…あたしに問題があるの…?」
わたしは事実を言っただけだがユーリにはそれを批判しているかのように聞こえたのだろうか?
「問題はわたしだ」
だから安心させるよう微笑みかけながら言葉を続けた。
「タワナアンナである前に、皇妃である前に、おまえがわたしの妻になるということを忘れていた」
そう、あまりにもあたりまえのことになっていて。
おまえが帝国に残った時点でわたしの中ではおまえを手放すことなどありえないことになった。
生ある限りおまえ以外の女など欲しくは無かったし決して奪われまいと思った。
生まれて初めて愛しいと思った女。
ずっと探し求めていた帝国をいっしょに背負っていける姫。
おまえはその両方を備えてわたしの前に舞い降りた。
考える間もなく体が動いた。
自然と跪きその黒曜石の瞳をとらえる。
「どうかわたしの妻になってほしい ユーリ・イシュタル姫」
これ以外のセリフは出てこなかった。
もっと気の利いたセリフもあったかもしれない。
だが他には思い浮かばなかった。
「カイル…」
ユーリは1度わたしの名を呼んだきり言葉を失ってしまった。
ユーリのマントに忠誠の口付けをし、その顔をうかがってみる。
目にいっぱいの涙を浮かべ立ち尽くしていた。
「返事はもらえないのか?」
「カイル…」
もう1度わたしの名を呼ぶといっぱいにたまっていた涙は溢れ出し、ユーリはとどまることのない涙のように押し上げてくる感情を隠すことも無くわたしの腕の中に飛び込んできた。
「カイル!!」
あとはもう言葉などいらなかった。
ユーリをしっかりと抱きしめこちらを向かせる。
唇を塞ぎ今この時の幸福を実感する。
ユーリは何も言いはしなかったが答えは伝わっていた。
どのくらいそうしていただろう。
「カイル。あたし返事まだ言ってなかったよね?」
ユーリは立ち上がり神々しいほどの微笑みを浮かべ優雅な仕草で礼をして言った。
「カイル・ムルシリ様、よろこんでお受けいたします」
「ユーリ…」
「カイルの妻はあたしだけだし、あたしの夫はカイルだけだよ?」
「ユーリ!」
今度はわたしが言葉を失う番だった。
わたしは慌てて立ち上がり想いの限り抱きしめた。
「カイル、苦しいよ」
照れくさそうな笑みを浮かるユーリをより一層力を込めて抱きしめる。
帝国も帝位も関係なくおまえを生涯の伴侶とすることのできる喜びをどう伝えようか?
わたしは世界で1番幸福な男になった。
END
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