みるさんチャットでの「15人目はだれだ?」クイズで正解!のリクエストは「ユーリがエジプトで無事だと分かってから再会するまでのカイルの心の動き」そりゃあ、もんもんとしていたでしょう。
あふれる想い
「ユーリ・イシュタルさま、ご無事でいらっしゃいます!!」
ルサファが告げたとき、私の思考は一瞬止まった。
この感覚は、どこかで感じたことがある、とぼんやりと思う。
蹴立てられた砂塵、荒い息をする馬の背から飛び降りたのは、弟だ。
「イシュタルさまはじめ、多数の者が現在行方不明です!」
言葉は、途中までしか理解できなかった。
ユーリが、不明。
その事実だけが、私に襲いかかった。
だから、ルサファがユーリの無事を知らせたときに、はじめて私は自分の思考のどこかが長い間停止していた事に気づいたのだ。
「ユーリが・・無事?」
最愛の半身を失ってもなお、自分の心臓が鼓動を刻むとは思えなかった。
だから、ユーリは生きている。
私が生きているのだから、生きている。
そんな事を考えながら、日々を過ごしていた。
夢の中で、不安に泣いているユーリを見た。
手を伸ばし、抱き寄せようとして、目が覚める。
空虚な寝台を眺めて、いてもたってもいられなくなる。
今すぐにここを抜け出して、探しに行こう。
そして、思いとどまる。
捨てて行くわけにはいかない。なにもかも。そうすることをユーリは許さないだろう。 片膝を着いたままのルサファを見下ろす。
腰巻きと、幅広の胸飾り。
「ユーリはラムセスのところか?」
エジプトの衣装を身につけたままルサファは面を伏せた。
「御意にございます」
以前、ユーリが奪われたときに、戦車から落ちたユーリを身を投げだしてかばった敵国の将軍を思う。
「子は・・どうした?」
愛しい女のうちに育った、愛しい命。
「・・・御子は御乗艦沈没が原因となって流産なさいました」
瞬間、泣き崩れるユーリの姿が浮かんだ。
まだ変化のない腹部を抱きしめて、おだやかな表情を見せていたユーリ。
なにがあってもこの子が産みたいと言い切ったユーリ。
お前が泣いているときに、私はそばにいてやれない。
私の代わりにお前のそばにいるのは・・・
「・・・ですがユーリさまはラムセス将軍のメンフィスの屋敷で手厚い看護をうけられ、お体の心配はございません」
ルサファの声が告げる。
ヒッタイト皇帝の寵姫という地位の者からは敵国のさなかに放り出されたに等しい。
しかし、あの男ならユーリを守ろうとするだろう。
砂漠の中で傷ついたユーリを救った過去もある。
けれど低い小屋の中での風景がフラッシュバックする。
組み敷かれた細い身体。挑戦的に笑ったセピアと金の瞳。
どんな女でもたやすく足下に身を投げだすだろうあの男が、危険を冒してまでユーリを手に入れようとした。
あの男の手の中にいるということは、別の危険ではあるまいか。
「それと将軍より陛下に、伝言を預かってまいりました。『ユーリさまを預かっている、欲しければ取り戻しに来い』とのことでございます」
私はその言葉に目を見開いた。
これは、指先からかすめ取るように奪おうとしているのではなく、あくまでも真っ正面から突きつけられた挑戦だ。
あの男には、自信があるのか?
力業には決して屈服しないだろうユーリを手に入れるだけの自信が。
傷つき、不安なユーリの心の隙間に滑り込めるだけの自信が。
いや、そんなはずはない。
ユーリが心を動かすはずはない。
私たちは固く結び合ったたったひとつの存在なのだ。
あの男が、いかに自信を持っていたところで・・たとえ、力任せにユーリを蹂躙したところで、奪えるものではない。
「・・・あの男・・・」
私は中空をねめつける。
「もちろん、ユーリはかえしてもらう!!」
夢の中のユーリは泣いている。
私は手を伸ばそうとして、どちらに進めばいいのかいつも迷った。
けれど、今なら分かる。
ユーリはエジプトにいる。
一刻も早く踏み出そう。
お前をもう一度、この腕に抱きしめるために。
あの男など、ふたりの間に介在できるはずもないのだと、そう知らせるために。
おわり
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