くたくたスプリング

                    by 春魚屋マリリンさん

「とと丸、おとなしくたも網にはいりなさい。」
 マリエ姫の声だ。
 マリエ姫など怖くも何ともないが、なにしろその保護者がちょっとなあ。
 皇帝?あっ そんなのはどうでもいいんだが。
 マリエ姫の保護者はピア皇子、この皇子が小さい頃から友達だから、おれはこの皇子には弱い
「さっ とと丸」
 マリエ姫が、たも網を持って立っている。
「とと丸、あなた私が小さいときに絶対たも網にはいってくれなかったわよねえ。」
 ずいっとマリエ姫の顔が近づく。
「ピアにい様に頼まれていたのは知っているわ。でもね、一度ぐらい入ってくれてもいいんじゃない。
にい様はもういないんだし。ね?」

 とと姫はすでに捕まって、水槽に入っている。
 おれを捕まえたら入れるように、大きな水槽が用意されているのも見える。
 とうとうおれたちもリストラなんだろうか。

 しかし、すばらしい水槽だ。さぞや高いだろう。元の池に戻すのに、ここまでりっぱな水槽はいらないだろうに。
 おれは、おとなしくたも網に入った。
 ピア皇子、戻ってきてもおれたちはいない。昨日の別れが永遠の別れになるようだ。元気で暮らせよ。
 何人かの衛兵が力を合わせておれを水槽に入れた。
 悪いな。なにしろ池が居心地良くてだいぶ大きくなったからな。

 気がつけば、皇帝・皇妃・皇太子もおれたちを見守っている。おれたちって結構大物なんだな。
 皇妃と皇太子がおれたちに別れを告げた。
「とと丸、とと姫 元気で。」
 ああ、そっちも元気で暮らせよ。
「ピアのこと頼むわね。」

 ピアのことを頼む?
 なんだって?
 マリエ姫が近づいてくる。
「とと丸、とと姫、ピアにい様によろしくね」
 ピアにい様によろしく?
 まさか、おれたちは転勤か?
 ピア皇子の任地に転勤させられるというのか?





 皇子の愛魚到着の噂は、あっという間に広まったらしく、おれたちを見たいがために知事の庁舎は大勢の人で賑わっている。
 初めてのことでとまどうばかりだ。
 何しろ一挙一動に注目が集まる。
 水しぶきをあげたと言っては歓声があがり、餌を食べたといっては拍手がわき上がる。
 これは、なかなか辛いものがある
 今日はたくさんの見物人の前で昼寝をしてしまった。
 かなり疲れがたまっているのだろうか。

 転勤とは大変なことなんだな。
 たまに見に来るピア皇子も疲れているようだ。
 お互い身体に気をつけような。
 顔を見合わせながら、こっそりため息をつくおれたちだった。


                      おわり

      

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