マリリンさん、666番げっと(なんて、ダミアンな番号)のリクエストは「ユーリがもしもカイル以外の誰かに抱かれていたら」誰かって、誰だ!?
 重いテーマです・・・


         煩炎



 触れたとき、かすかにユーリの眉がひそめられたのを、見逃さなかった。
 夢の中で幾度もかき抱いた細い身体が、目の前に横たわっている。
 なめらかな肌や、ほっそりと隆起する曲線は以前のままなのに、砂のような違和感が紛れ込む。
「ユーリ、会いたかった・・・」
 ささやく。薄く開かれた黒曜石の瞳に走ったのは、確かに脅えだった。
 気づかぬ振りで指を走らせる。動揺を悟らせないように、口づけを貪りながらも、つい肌の中に痕跡を探ってしまう。
 どんな想いで待ち続けたのか。一度は完全に失ったことを覚悟もした。
 絶望の中で崩れそうになる身体を叱咤しながら、神に祈った。
 生きてさえいてくれれば。
 もう一度、この手に取り戻すことができたら。
 今、腕の中にいるこの身体にほかの男の気配が残されていたところで、誰を恨んだりもしない。
 永遠に失うことに較べれば。
 それでも、象牙の肌を貪ったはずのあの男の顔を思い浮かべる。野心に満ちた目で、傷ついた身体を辱めた男の顔を。
 焼け付くような焦りが、愛撫に執拗さを増したのか、細い悲鳴があがる。
「お・・ねがい・・カイ・・・ルや・めて」
 涙を浮かべた瞳が背けられる。身体の下から抜け出すように、細い肩を自分で抱いて震えている。
「ユーリ・・」
 びくりと揺れた。刻み込まれた恐怖を、呼び覚ましてしまったのか。
 苦い、後悔がこみあげる。
「ごめ・・んなさい・・・」
 嗚咽混じりの声が、謝罪する。
「会いたかったんだ、ユーリ。夢ではないと確かめさせてくれ」
 汚された、とは思っていない。どんなことをしても守りたいと思っていた大切なものを傷つけられた。だからこそ時間はかかっても、傷はいやしてみせる。
「・・ごめんな・・さい」
 言葉は繰り返されるばかりだ。
 思い切って腕をのばす。身体を抱き寄せると、抵抗がある。
「私を嫌いになったのか」
 強く捕らえながら、ささやく。残酷な告白をさせるつもりはない。互いに知らぬふりでとおせば、また何ごともない日常が取り戻せるだろう。
 けれども、あの男が嗤う。
 国を賭けても惜しくない女を、平然と奪い己の存在を刻み込んだあの男が。
「嫌いじゃない・・大好きよ・・・でも・・あたし・・」
「子供のことなら、気にするな」
 そして、他の男に抱かれたことも。
 忘れたいというのなら、忘れさせてやる。すべてを消し去って、ただ自分の存在だけしか感じないまでに何度も抱きつづけよう。
「あたし、カイルに・・ふさわしくない」
「それを決めるのは、私だ」
 けれど、一度恐怖を受けた身体が拒む。無理に開けば、取り返しのつかない傷を心身共に残すことになるだろう。
 奥歯を噛みしめる。
 あの男がそこにいるかのように、闇を睨み付ける。
「殺してやる」
「カイル・・?」
 腕の中で息を飲む音がする。気づいたことに、気づいたか?
「あの男を、この手で必ず」
 硬くなった身体を抱きしめる。昏い炎が、立ち上がる。
 あの男の生まれた国を、いまならためらいもなく焦土に変えることができるだろう。
 戦のもたらす悲惨さより、たった一人の女を選ぼう。 
 ゆっくり、腕の中の身体を離す。
 静かに、視線をすべらせる。胸の丸みが震えている。そこに口づけると、歯をたてた。
「・・・あっ・・」
 小さな痕を残すと、指でなぞる。
「おまえは、とても綺麗だ。だが、いまは抱かない・・・この意味が分かるか?」
 脅えた瞳が、それでもうなずいた。もう一度、腕に力を込める。
 この細い身体が、やがて抱擁を返すようになるまで待とう。
 あの男の屍を投げだして、もう脅えることはないのだと、言い聞かせよう。

 おまえが笑顔を見せてくれるのなら、すべてを焼き尽くしてもいい。


                終
     

     

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