本当に迷惑

                              by看病屋マリリンさん

 僕は今、父上の部屋で父上にご飯を食べさせようとしている。
「父上、はい、あーん」
と言っている僕に父上はちっとも協力してくれない。
 僕は嫌々でもちゃんと協力していたのに、まったくおとなげないったらありゃしない。
「父上、少しはお召し上がりにならないと治りませんよ。」
「治らなくてもいい。」
 また、そんなことを。そんな青い顔を母上が見たら心配なさるでしょ。
「なぜ、ピアなんだ?シンもマリエもデイルもユーリが看病していたのに・・・・」
 恨めしげな目で僕をみる。
「僕は父上に看病していただいたんだから、父上の看病は僕がしなさいって。」
 僕だって、いやだと言いましたよ。と心の中でつぶやく。

 もちろん、母上は看病すると言った。
 それを止めたのは、イルバーニたち側近だ。
 母上にうつって母上が寝込んだりしたら、父上は仕事なんて手に着かない。
 そんなことは、過去の経験で十分わかっている。
 だから、僕に看病させようとしている。それはいい。ただし、言うことを聞いてくれる病人であるならばだ。
「母上は、父上の分まで政務をこなさなくてはなりませんからね。」
 ああ、こんな理由では父上は納得しないだろうな。
「デイルがいるではないか?」
「兄上は、まだとても二人分はこなせませんよ。」
「イル・バーニだっている。」
 そんなことを言われたって。
 僕は、小さくため息をつく。
 父上も小さくため息をついている。

「父上、これ以上お召し上がりにならないと、母上の手料理が届きますよ。」
「なに!」
 父上の顔が青ざめる。
 うーん、まだ青くなれたのか。変なところで感心してしまう。
「父上の食欲がないのは、料理がお口に合わないせいだと母上がとても心配してみえましたから。」
 これって、ちょっと意地悪な発言だろうか。
 しばらく考え込んでいた父上は、渋々食べることにしたようだ。
 が、「あーん」はいやだったとみえて自分で食べると言い張る。
 僕だってその方がいい。

 父上が食べていると母上が様子を見にやってきた。
「ピア、看病お疲れさまね。」
 母上は、まず僕をねぎらってくれた。
 ま、まずい。父上がムッとしている。
 母上〜、父上にまず声をかけてくださいよ。

「どうしたの?顔色が悪いわよ、ピア。」
 あなたの後ろから、父上が凄い顔で睨んでいるんですよ。母上。
「ピア?」
 母上が、僕の額に手を伸ばしてきた。熱でもあるのかと心配になったようだ。
 とっさに、よけて立ち上がる。
「ピア?」
 母上の心配そうな声を無視して僕は
「疲れたので、休ませていただきます。」
 そう言うと、父上の部屋を出た。
 ごめんなさい、母上。
 これ以上いると父上に殺されるかもしれないんです。
 はあぁ、ため息をついて顔をあげると、そこには怖い顔をした、イル・バーニが立っていた。
 一難去ってまた一難 ってちょっと違うか?


 僕は、兄上と一緒に執務室に缶詰になっている。
 看病を途中で放り出した責任を取らされているわけだ。がしかしあれ以上部屋に留まっている勇気はなかった。
 視線で人が殺せるなら、僕は即死だっただろうな。
 そんなことを思って手を止めてぼんやりしていると、兄上につつかれた。
 はっと気づくと兄上が僕を睨み付けている。
 四面楚歌 ってちょっと違うか?


 春の快い風が執務室にも吹き込んでくる。
 こんな日は、遠乗りにでも行きたいものだ。
 この執務室から解放されるのは、いったいいつになるのだろう。
 僕は、大きなため息をつきながら、次の書簡に手を伸ばした。


                     おわり

        

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