神話
by 仁俊さん
何処の国にも神話というものは存在するらしい。
日本の神話の中で有名なのは古事記に出てくる“天孫降臨”と“天の岩戸”のお話だろうか?
一応、知らない人のために簡単に説明しよう。
まずは“天孫降臨”から。
アマテラス(正式には天照大神)という名の女神が“高天原”(タカマガハラ)と呼ばれる天上世界を支配していた。
地上にある“葦原の中つ国”を息子のオシホミミに継がせようと思ったのだが、そのオシホミミにニニギという子供ができた。
アマテラスにとっては孫のニニギの方が息子のオシホミミよりも可愛かったのか、ニニギを降臨させて“葦原の中つ国”を継がせようとした、というお話。
次に“天の岩戸”。
太陽の化身であるアマテラスが機嫌を悪くして“天の岩戸”と呼ばれる場所に引き篭もり出て来なくなってしまった。
太陽が出て来ないのだから天上世界の“高天原”も地上世界も真っ暗なままだ。
弱り果てた“高天原”の神々は知恵の神様であるオモイカネに相談した。
そこでオモイカネが提案したのは“天の岩戸”の前で宴会を開くことだった。
宴会は女神アマノウズメの踊りによって大いに盛り上がったため、アマテラスも気になって“天の岩戸”を少し開け、外の様子を窺おうとした。
ところが岩戸の近くには力自慢の“手力男の命(タヂカラオノミコト)”が待機していた。
岩戸を再び閉じることの出来なくなったアマテラスは諦めて出て来たので、地上にも天上にも太陽の光が戻ったというお話である。
ところで、日本古来の技術にタタラ製鉄がある。
製鉄と言えばヒッタイトだ!
・・・と言う訳で、日本の神話と天河の14巻後半部を無理矢理くっつけてみた。
配役の方は読んでもらえば、多分わかると思う。
“アマテラス”ナキア皇太后は今日も元気だった。
王宮のテラスから下界(?)を誇らしげに見下ろし、
「わが息子“オシホミミ”ジュダよ。“葦原の中つ国”ヒッタイト帝国はお前が治めるのだ!」
などと、のたまっては周囲の顰蹙を買っている。
「ヒッタイト帝国は兄上のものですよ。僕はその器ではありません」
息子の返事もいつもと同じだ。
「ええい、黙れ。たとえお前がダメでも孫の“ニニギ”に継がせる!」
「孫の“ニニギ”って、僕に子供が授かるかどうかもわからないのに・・・」
“黒い水”を飲まされている割にはまともに反論してくる“オシホミミ”ジュダ。
任地のカネシュから用も無いのに何度も呼びつけられるので、いいかげんウンザリしているのかもしれない。
しかし、何でも言うなりになるはずの息子に口答えされた“アマテラス”の方はカチンときたらしい。
「不吉なことを言うでない!」
とばかりに息子を睨みつけ、
「私は気分を害した。“天の岩戸”皇太后宮に篭もる!」
そう宣言して公式行事に出て来なくなってしまった。
病気でもないのにタワナアンナが長期にわたって公式行事に出席しないというのは、帝国の体面に関わる重大問題だ。
困り果てた“高天原”元老院の議員たちは知恵者である“オモイカネ”イル・バーニの提案に従って“天の岩戸”の前で宴会の準備を始めた。
元老院の主催する正式の宴なので、その夜、身分の劣る女神“アマノウズメ”ユーリ・イシュタルは末席に座らされていた。
しかし何処にいようとも着飾ったユーリの美しさは輝くばかりだったので、嫉妬心を掻き立てられた他の女神たちは口々に
「イシュタルさまの踊りが見たい」
と言い始めた。
皆の前で踊り子の真似をさせて、彼女を辱めようというのだろう。
「踊らせていただきます!」
気丈な女神は周囲のやっかみなど、ものともせずに見事に舞い、踊った。
巧者イル・バーニの演奏が艶やかな舞いに華を添える。
宴は最高潮に盛り上がり、さすがの“アマテラス”ナキアも外の様子が気になってきたらしい。
宮の門のすぐ内側まで出てきて、扉の向こう側から外に問い掛けてきた。
「随分と楽しそうではないか。何をやっておるのだ?」
扉の近くに控えていた“手力男の命”ミッタンナムワがユーリの舞いから目を離さずに答えた。
「女神“アマノウズメ”の舞いですよ。いやあ、あの美しさは目の保養になりますなあ!ヒック」
周囲の者たちも口々に賛同の意を表明する。
どれも少しろれつが回っていない上に、やたらと声が大きい。
お酒がかなり入ってしまっているらしい。
「何を言うか、私の方が美しいぞ!」
ムキになるナキア。
だがミッタンは取り合わない。
「おやおや、張り合うおつもりですか?やめておいた方がよろしいですよ、ヒック」
頭に来たナキア。
かんぬきを外し、扉を押して出てこようとするが、開かない。
どうやら酔っ払ったミッタンたちが扉に寄りかかってしまっているようだ。
「これ、そこをどけ。どかぬか!」
“手力男の命”の役目は“アマテラス”を外に出て来させることのはずだが、この男は一体何をやっているのだろう?
そうこうするうちにアクシデントが起こった。
“アマノウズメ”ユーリの衣装が踊っているうちにほどけて、肌が露わになってしまったのだ。
ユーリに嫉妬した他の女神たちの誰かの指図によって衣装に細工がされていたのであろう。
「きゃああっ!?」
と、その場にうずくまってしまうユーリ。
一瞬にして、宴の場は大騒ぎとなった。
その異変を女の直感(魔力?)で察したのか、ナキアは外のミッタンたちに対して執拗に開門を要求してくる。
「何だ!?何が起こっているのだ?・・・そこをどけ!どいて、早く門を開けよ!」
日頃ユーリの評判を苦々しく思っているナキアにとって、これは格好の見物ネタである。
「この“アマテラス”ナキアの命令が聞けぬと言うのか!?早く開けよ!」
“アマテラス”の名を聞いて自分の役目を思い出した“手力男の命”ミッタンだったが、やはり彼はユーリの味方だった。
もはや本来の役目とは完全に逆だが、ユーリが体裁を整える時間稼ぎのために必死になって扉を押さえ続ける。
扉を開けさせるために私兵まで動員してユーリの醜態を見ようとするナキア。
だがミッタンらの奮闘のおかげで、間一髪間に合わなかった。
口惜しそうに歯噛みするナキア。
「おや?“アマテラス”様ではございませんか。やっとお出ましになられましたな」
ナキアを笑顔で出迎えたのは“オモイカネ”ことイル・バーニ。
「やっと、とな?・・・私が外に出るのを邪魔する者がいたようだったが」
赤ら顔のミッタンを横目で睨みつつ、いかにも不機嫌そうに、しかも嫌味たっぷりに返すナキア。
「ほう、“手力男の命”が・・・?」
それを聞いて少し首を傾げたイルだったが、すぐにまた笑顔になって、しれっと一言。
「もう夜も遅いので、太陽の化身であられる“アマテラス”様を外にお出しするのを憚ったのかもしれませんな。ハッハッハ」
イルの機転によって処分を免れたミッタンは、その後も彼に頭が上がらなかったそうな。
・・・カイル、今回は出番無し。
(おしまい)
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