『Something』


                       by きくえさん



 いつもと何ら変わりない夜。
 愛を確かめ合った後、熱く柔らかい身体を抱き締めると、朱い唇から熱い吐息が漏れる。
 その、どこか悩ましげな囁きに満足しながら目を閉じる。
 どれほど経ったのか。なんとなく違和感を感じ目を開けると、すぐ間近にある瞳と視線がぶつかる。

「どうした?」
「ごめん、おこしちゃった?」
 ユーリは丁度、手を差し出そうとしている所で、わたしが目を覚ました事に驚いたのか、空中に止まったままの手をそっと掴むと、そのまま掌を頬に沿わせる形に落ち着かせる。
「いや…どうした。眠れないのか?」
「そんなことないよ…ただ、カイルを見てただけ」
「いつも見ているのに?」
「飽きないからいいの!」
 照れ臭そうに、ほんのり頬を赤く染める姿が愛しい。

 一体、ユーリは何を考えているのか…いや、何も考えていないのかもしれない。
 しばらく、無言で頬を撫でているかと思ったら、今度は髪を梳き始めた。
 お返しにと、ユーリのしっとりとした髪を梳いていると、ユーリが不意に口を開く。
「…伸びたね…髪の毛」
「そうか?」
 言われて、前髪を見上げるが…自分では判らないものだな。
 視線を、首筋に流れた後ろ髪を弄りだしたユーリの指先に戻す。

「ねえ、カイルって、髪型変えたりしないの?初めて会った時から同じだね」
「…そんな事、考えた事もなかったな…例えば、どんなのが良い?」
 ユーリは小さく首を傾げながら、肘を付いて身体を軽く上げると、今度は髪を軽く引張ったり後ろで一括りにしたりなど思考錯誤を始めたが、どうやら気に入った髪型が見つかった様だ。
 満足そうな笑みを浮かべている。
「う〜ん、そうだなぁ…長髪とか…もっと短いのも良いけど…前髪を上げて、バックに流すとかは?…うん、やっぱり似合ってる。渋くてカッコイイよ」
――なんだって?!
「…カッコイイ…?」
「ん。さっきもね、カッコイイなぁ〜って思ってたんだ。後ろを切っちゃっても良いね」
「…"さっき"とは?」
 何時のことなんだ?
 勿論ユーリは何も考えずに口をついて出てきたセリフなのだろうが、わたしの言葉に、しまったと言うような表情をする。
 本当に、ユーリは嘘がつけないな…。
 冷めてきていた身体に、再び火が灯り始める。
「……"さっき"は、さっきよ。なんか、話がずれてない?」
「いいや、ずれてない。"さっき"とは、わたしがこうしてた時のことか?」
 さり気無く逃げ始めた身体を、肩を押さえる事によって難無く留めると、上掛けを捲って覆い被さる。
「ちょっ、誰もそんな事言って……んっ……カイル!!」
 首筋に唇を這わせていると、非難めいた声が上から聞こえて来た。
 朱い痕の上に唇を寄せながら応える。
「…なんだ?」
「"なんだ?"じゃない…よっ。もう寝なきゃ…」
「別に良いじゃないか」
 今度は、朱痕の隙間を埋めながら。
「ダ・・メっ!朝から…会議が……あっ…」
 呼吸も怪しくなって来たユーリは、それでも抵抗を繰り返すが、ピンと尖った膨らみを軽く擦るだけで語尾が消えていく。

 確かに皇妃が会議に出られないというのはマズイが…
 …まあ、いいか。
 一瞬、皇帝としての理性が頭をもたげるが、悩ましげな溜息が聞こえると、それはすぐに消え去った。
 会議も重要だが、目下の最重要事項は、この肌を再び味わう事だ。
「大丈夫…わたしが起こしてあげるよ…」
「んんっ………」
 まだ何か言いたそうなユーリの口を塞ぐと、抵抗がだんだん小さくなっていく。
 じっくり堪能してから唇を解放すると、ユーリは胸を大きく上下させながら息を整えようとしている。
「"カッコイイ"のだろう?」
「……ばか……」
 ほんの少し恨みがましい瞳を煌かせながら、細い腕がゆっくりと背中に廻される。
 明日の早朝会議は…皇妃は遅刻だろうか―――?



                 おわり

    

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